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2021.01.05

星野之宣『海帝』第7巻 一つの航海の終わり そして海の皇帝の意味

 空前絶後の大艦隊を率いて海を征く鄭和の航海も、この巻でいよいよ一つの終わりを迎えることになります。最後の目的地・古里(カリカット)から明に帰ってきた鄭和の艦隊ですが、しかし彼が先帝・建文帝を逃したことがついに永楽帝の耳に入ることに。果たして鄭和の運命は……

 幼い頃に永楽帝に父と己の男である証を奪われ、しかしその永楽帝と共に戦い続けてきた鄭和。しかし戦いに次ぐ戦いの中で己の奪った命の償いをするため、鄭和は永楽帝に攻め滅ぼされた建文帝とその娘を匿い、自らの艦隊に乗せて国外に逃がそうと決死の試みを繰り広げることになります。
 そして幾多の冒険と苦闘の末、ついに錫蘭(セイロン)で二人と別れたものの、しかし艦隊を襲った海賊・陳祖義に二人の存在を知られてしまった鄭和。口を封じることは難しくないものの、鄭和は敢えて法に従い、陳祖義を生かしたまま永楽帝の下に連行することを選ぶのですが……


 というわけで、この巻の中心となるのは、明に帰国する鄭和に下される永楽帝の審判の行方であります。
 先帝の地位を武力で奪い、そして逆らう者には容赦なく残酷な死を与えてきた永楽帝。鄭和が行ったことは、理由の如何こそあれ、永楽帝への謀反にほかならず、極刑を下されることは避けられないとしか思えないので思すが――しかし彼は敢えて真正面から帝と向き合う道を選びます。

 むしろそんな彼を案じ、助けようとするのは、潭太や入間九郎ら黒市党の面々に配下の宦官たち、さらには艦隊を支えてきた兵士や船で働く人々まで――すなわち、彼と航海を共にしてきた無数の人々の方であります。
 そんな彼らが、たとえ鄭和が拒んだとしても! と立ち上がる姿は――作中で鄭和自身が感じるように――これまでの彼の孤独で苛烈な人生を思えば、胸に迫るものがあります。

 しかしそれは同時に彼が苛烈だったのはあくまでも自分自身に対してであり、他人にはどこまでも優しかったからこそのものであるのですが……


 とはいえ、そんな鄭和の生き方に動かされない者がいるとすれば、それは永楽帝をおいて他にはいないでしょう。そして果たして永楽帝の前に引き出された陳祖義は何を語るのか、それを聞いた永楽帝の判断は――それこそが鄭和の航海の本当の結末というべきでしょう。

 そしてその結果は――あまりここで踏み込むわけにはいかないのですが、こう来たかという驚きと、これしかないかという納得と、二つながらに備えたものというべきでしょう。
 それは言うなればあくまでも(少なくとも表向きは)情ではなく理の結末――それはそれで本作らしい結末というべきでしょうか。

 そしてそこにあるのは、永楽帝と鄭和という二人の男が、全く対象的であるようでいて(いやそれだからこそ)表裏一体の関係にあるという事実であり――そしてそれが本作のタイトルの意味に収斂していく様には、ただただ唸らされるのであります。


 こうして鄭和の最初の航海は終わり、そして次なる航海が始まるのですが――この第2次航海は、第1次航海のある意味エピローグともいうべきもの。真の意味で新たな旅は、次なる第3次航海となります。
 果たしてそこに何が待つのか。鄭和はそこに何を求めるのか。その答えは、次巻で目にすることになるのであります。


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