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2021.01.15

ふくしま政実『格闘士ローマの星』 死闘と信仰と――古代格闘士の愛と誠!

 今年は『拳闘暗黒伝セスタス』のアニメ化もあり、古代ローマ格闘の波が来る! と思ったわけではありませんが、今回紹介するのは、やはり皇帝ネロの時代に生きた格闘士の愛と戦いを描いたバイオレンスアクション――ふくしま政美と梶原一騎というある意味ゴールデンコンビの異色作であります。

 西暦63年、暴君ネロに支配されたローマ――連日コロセウムで格闘士たちが命がけの戦いを繰り広げる中で、「ローマの星」と呼ばれ、実力・人気ともに頂点にある青年格闘士・アリオン。
 それを快く思わないネロは、双剣術の使い手であり、ローマに敗れて囚われの身となったカリビアの王女・ライザとアリオンの試合を組むのでした。

 やむなくライザと戦い、公衆の面前で殺めたかに見えたアリオンですが、秘術を用いて彼女を仮死状態にし、埋葬されるところを救出。互いの気高い心を知り、強く惹かれ合う二人ですが――それも束の間、アリオンと父のゴリアスが自分のことで争うのを見たライザは、自らの命を絶つことになります。

 かくて真相を知らぬ市民たちからは女性をその手で殺した悪魔と罵られ、そして自らも最愛の人を失って自棄になったアリオンは、残虐ファイトを繰り広げる悪役格闘士に転向。なおも送り込まれるネロの刺客たちと血みどろの死闘を繰り広げることになります。
 しかしそんなある日、闘技場でライザと瓜二つの女性――実はライザの妹のロザリアと出会ったアリオン。熱心なキリスト教徒であった彼女を通じてキリストの教えを知った彼は、大きく心を揺さぶられるのですが――しかし非道なネロの魔手は、なおも執拗にアリオンたちを苦しめるのであります。


 直前まで『女犯坊』、そしてほとんど同時期に『聖マッスル』という二つの代表作を連載し、脂の乗り切っていたふくしま政実。そして既に一連のスポ根もので向かうところ敵なしとなっていた梶原一騎。
 この希有の才能二つが出会った本作は、予想通りと言うべきか、誌面から熱気――というより血と汗の匂いが漂ってくるかのような強烈な作品であります。

 史上名高い暴君ネロの治世を背景に――物語の終盤にはローマ大火とネロのキリスト教徒迫害が大きな要素に――展開する物語は、血も涙もない、いや血も涙もありすぎる人々が繰り広げる一大スペクタクル。作中でロザリアを導く使徒ペトロも思わず「クォ・ヴァディス」と言ってしまうような(言いません)熱く濃い物語が展開いたします。

 もちろん梶原一騎の格闘漫画らしく、ボクシング(の源流)を得意とする黒人格闘士や、タイ式キックボクシング(の源流)の遣い手のインド人格闘士なども登場、プロレス技を操るアリオンと激闘を展開。
 その一方でアリオンとライザ、そしてロザリアとの純愛も、この殺伐とした物語に花を添える――いや物語を動かす巨大な力として展開し、最後の最後まで運命に苦しめられるアリオンたちの姿から目が離せません。


 しかし――個人的に本作で強く印象に残ったのが、アリオンの父・ゴリアスの存在です。

 眼帯に片足の禿頭の中年(ちょっと女犯坊似)という強烈なビジュアルのゴリアスは、かつて名うての格闘士として知られながらも、身を持ち崩して全てを失い、唯一残されたアリオンに虐待同然の修行を課してきた男。
 暴行で牢にぶち込まれた過去があったり、自分たちの身を危うくするとアリオンが連れ帰ったライザを放り出そうとしたりと、かなりのヒューマンダストなのですが――しかしそんな彼の存在が、物語が進むにつれて大きく輝くようになるのであります。

 己の欲に動かされる、ある意味極めて等身大の存在であるゴリアス。しかしそんな彼が、アリオンとともに数々の苦難に遭う中で、やがて息子を想い、そのために自らの命も擲とうとするほどに変わっていく――その姿は、善と悪の間を結構容易に移ろうアリオン以上に、人間というものの在り方、そしてその成長を強く描き出すのです。

 そしてそんなゴリアスの、ヒーロー然としたアリオンとはまた異なる人間臭さが、やがて同じ人間であるローマ市民を動かし、大きな歴史のうねりに繋がっていく――というクライマックス(これがまた幾重にも及ぶ危機また危機!)は実に素晴らしく、単行本3巻と決して長い物語ではないものの、素晴らしい読了感を与えてくれるのです。


 しかし本作のローマ市民、基本的に残酷ショー好きな上に容易に暴徒と化すし、アリオンへの評価もコロコロ変えるという、これまたある意味非常に人間的な存在で――ここだけ見るとまさに「人間の性悪なり」なのがまた何とも、であります。


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