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2021.01.24

『明治開化 新十郎探偵帖』 第6回「稲妻は見たり」

 ある激しい雷の晩、母里家の庭の井戸で何かが落ちる音がした後、姿を消した女中の三枝。家宝の皿を割った咎を恐れた三枝が身を投げたのではと疑われたものの、井戸からは何も見つからない。調査を依頼された新十郎だが、さらに母里家の子息・由也付きの使用人・時田までが姿を消し……

 いよいよ終盤に近くなってきた第6話は、同題の『安吾捕物帖』の第11話を原作とするエピソード。しかしシチュエーションとトリックをほぼ同じくしつつ、その内実は全く異なる展開となっております。

 ある激しい雷の晩、政府要人の母里家に子息・由也が帰宅した直後に、庭の井戸の方からした大きな水音。翌朝、女中の三枝が姿を消しており、家宝の皿が割れていたことから、番町皿屋敷よろしく皿を割ってしまった三枝が身を投げたのでは――と疑われ、井戸を浚ってみたものの、そこからは何も見つからないという結果に終わります。
 その時間帯、主人夫妻は家を留守にし、由也は帰宅したばかり。由也付きの使用人・時田は友人と酒を飲んでいて、その他の使用人たちは大の雷嫌いのために部屋に籠もっていた――と、全員のアリバイがある状況の中、三枝の幼馴染だった勝家の女中・お兼の願いで、新十郎が出馬することになります。

 しかしそうしている間に、今度は時田が忽然と失踪。由也が母里家本家の子ではなく、全国で多発している新政府に対する一揆で両親を喪った分家の子であり、時田と共に地方から出てきたと知った新十郎は、手がかりを求めて彼らの故郷に向かうのですが――そこで手荒い歓迎を受けることになります。
 謎が深まる中、新十郎の脳裏に浮かんだ言葉はdistrust――不信。果たして事件に隠された不信とは、誰と誰の間のものなのか……


 と、冒頭に述べたように、激しい雷の晩に失踪した女中と割れた皿、いずれもアリバイのある家人――というシチュエーションと、そこに秘められた意図とトリックという点では原作をほぼなぞりながらも、物語の中心となる由也、そして時田の設定は、全く異なるものとなっている今回。
 原作では由也は地方から出てきた分家の子という設定は全くなく、時田に至っては、彼の同級生の学生(事件の時間酒を飲んでいた、という点は原作とドラマで共通なのが面白い)という設定なのですが――言ってみれば東京の母里家周辺だけで終わっていた原作を、当時頻発していた一揆(おそらくは徴兵令反対一揆や地租改正反対一揆)に絡めてきたのは、これは文明開化の時代の裏面を描いてきた、全く本作らしいアレンジというべきでしょう。

 そこで絡められたものとは――これは物語の中核に踏み込んでしまうので書けないのですが、相当に豪腕でありつつも、なるほどこのシチュエーションは新十郎の心を動かすに違いない、という内容で、終盤のドラマの盛り上がりも納得ではあります。
 これまで(本作の大久保利通的に言えば)文明開化による自由の副作用が事件の引き金となることの多かった本作ですが、今回描かれたものは、これまでとはまた異なるベクトルでそれを描いたものと言ってもよいでしょうか。

 今回のキーワードとなる「不信」とは対照的に、いつしか固い絆で結ばれていた新十郎たちの姿(そしてそれがラストシーンに結実するわけですが)も印象的です。


 しかし、すぐ上で述べたとおり、相当豪腕な内容であったことは間違いなく、今回の結末のような裁きとするには、相当無理が生じるわけで、結果の大きさからも、ちょっとすんなりとは頷けないところではあります。(おそらくはドラマの舞台である明治6年当時、○○法は既に制定されていたわけで、根幹となるトリックもどこまで成立したか……)
 そして新十郎はともかく、速水もこの結末を受け入れた点も、ちょっと引っかかるところで――公権力と(いかに特命とはいえ)私立探偵が同じ結論を良しとするのは、本作の設定的にはどうなのかな、と感じます。

 もっとも本作の場合、ミステリとしても登場人物の描写としても、原作の時点でかなりすっきりしない内容であって、冷静に考えると非常に無理があるトリック(成立できるのはほとんど奇跡のような確立では)はさておき、人物描写については、本作の方が整理されているのは間違いありませんが……
(もう一つ、原作には文明開化の裏面として、今なお残る身分差別やそれに対する解放運動の要素もあったのですが、それはさすがに陽には描きにくい題材でしょう)


 さて、物語の背景の方ではついに西郷が下野、いよいよきな臭くなってきたところですが――次回予告もその臭いは漂います。ラスト2話で何が描かれるか、最後まで注目したいと思います。


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