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2021.01.25

グリヒル&ジーン・ルエン・ヤン『スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン』(その一)

 かつてスーパーマンが「クー・クラックス・クラン」と戦ったという「実話」を踏まえて描かれた、2020年ハーベイ賞を児童・若年向け作品部門受賞作――1940年代のアメリカを舞台に、スーパーマンと人種差別との戦いを描くとともに、さらにそこから踏み込んでみせた名品であります。

 1946年、メトロポリス保健局に職を得た父に連れられ、チャイナタウンから越してきた中国系アメリカ人・リー家のトミーとロベルタ。トミーがすぐに周囲の人々と打ち解ける一方で、ロベルタはなかなか馴染めず、疎外感に悩むのでした。
 そんな中、白人の優越を唱える排外的結社「燃える十字架のクラン」が火炎瓶でリー家を襲撃し、さらにトミーがクランに誘拐される事件が発生。トミーは駆けつけたスーパーマンに救出されたものの、クランの活動はいよいよ過激さを増していくことになります。

 そしてついには活動を糾弾するロイス・レーンらデイリー・プラネットの人々にも危害を加えんとするクラン。敢然とクランに立ち向かうスーパーマンですが、そんな彼の身にはある異変が……


 第二次世界大戦を挟み、再び復権しようとしていたKKK――その動きに脅威を感じた人々は、当時大人気だったスーパーマンのラジオドラマの中で、スーパーマンが中国系アメリカ人の一家を守り、KKKを思わせる悪党たちを退治するストーリーを製作、好評を博しました。
 そのドラマにより、現実のKKKのパブリックイメージがダウンした――とまでくると一種の伝説かもしれませんが、物語の中のスーパーヒーローが現実の中で果たす役割について考えさせられる、興味深い実話であることは間違いありません。


 本作は、言うまでもなくその時のエピソードをベースとした作品ですが――そこに様々なアップデートを加え、今の時代の我々の胸に迫る物語として再生させた作品であります。

 そしてそのアップデートの一つが、本作の主人公というべきロベルタの存在にあることは間違いないでしょう。
 チャイナタウンからメトロポリスという異郷に放り込まれた、神経過敏で引っ込み思案な少女のロベルタ。本作は、彼女がクランと対峙し、スーパーマンとともに冒険を繰り広げる中で、自分自身と向き合い、アイデンティティを確立していく物語でもあるのですから。
 このロベルタに当たるキャラクターは、先に挙げたラジオドラマの中では名前もなかった――すなわち脚光を浴びることがなかった登場人物。そんな彼女に注目することにより、本作は少女の成長物語としても出色の作品として成立しているのです。

 そしてさらに、彼女の視点から世界を描くことにより、本作はクランのような極端なものではなく、生活の中に存在している「差別」の存在を浮き彫りにすることになります。
 例えば、自分もクランに攻撃されながら、黒人たちを、あるいはスーパーマンを「異邦人」として拒絶するロベルタの父。あるいは、メトロポリスに引っ越していったロベルタを避けるチャイナタウンでの友人たち(そして無意識のうちに自分も彼女たちと壁を作っていたかも知れないと感じるロベルタ)といった、ごく普通の人々の姿を通じて……


 しかし本作のさらに見事なのは、この点だけにとどまりません。それは――長くなってしまいましたので、次回に続きます。


『スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン』(グリヒル&ジーン・ルエン・ヤン 小学館集英社プロダクション) Amazon

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