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2021.02.07

『明治開化 新十郎探偵帖』 第8回「維新の遺言」

 行方不明となった速水星玄を探すため、薩摩に向かう新十郎一行。そこで私学校に若者たちを集める西郷隆盛と対面した新十郎は、西郷の戦を否定する言葉と裏腹に、大量の武器が集められていることを知る。そしてある晩、武器庫が荒らされ、その疑いが新十郎にかけられる。はたして新十郎の真意は……

(当初この記事では今回は「原作のエピソードをベースにしていない完全オリジナル」と記しましたが、ブログ読者の方から、『安吾捕物帖』の「幻の塔」ではないかと貴重なご指摘をいただきました。以下の記事を修正させていただくとともに、ご指摘に心から御礼申し上げます。)

 前回ラストに勝に啖呵を切ったとおり、海を越えて薩摩に向かう新十郎。その傍らには虎之介――はいいとして、梨江まで一緒なのには驚きましたが、加納の船を使う交換条件というのは、理に適ってはいますが思い切った行動ではあります。
 それはともかく、同行してきた薩摩出身の福原巡査の案内があるとはいえ、この当時の薩摩はほとんど火薬庫のような状態で、早速西郷の私学校の生徒たちに取り巻かれ、大立ち回りを演じることになります。

 そこに速水と西郷が現れたことからその場は収まり、私学校の客人扱いを受けることになった新十郎一行。西郷を心から慕う若者たちが集い、熱気溢れる私学校の様子ですが、新十郎の冷静な目は、そこに必要以上の武器が集められていることを見抜くのでした。
 さて、西郷と対面して、彼が士族たちのことを真に案じ、そして戦いを望んでいないことを聞かされる新十郎たちですが、その言葉に弟子入り志願までした感激屋の虎之介と対照的に、新十郎は普段通りの超然とした態度を崩しません。そのために周囲の生徒たちからは反感を買いまくる新十郎ですが――それがさらなる騒動の引き金となります。

 賑やかな宴会の晩、見張りたちが酔いつぶれている隙に何者かが武器庫に侵入し、その場に洋靴の跡が残されていたことから、真っ先に疑われる新十郎。そして新十郎の荷物を探った虎之介(この時万華鏡を見つけ、やけに良い発音でsomething strangeとやりだすのが愉快)は、その中から拳銃を発見してしまいます。そして虎之介に問い詰められた末に取り押さえられた新十郎は、密偵として生徒たちから刃を突きつけられるのですが……


 冒頭に触れた通り、原作の「幻の塔」がベースとなっていると思われる今回。原作は若者たちを集め武術道場を開く、元馬賊の頭目との噂もある謎の人物・島田幾之進を中心に、彼の周囲を嗅ぎ回る悪党たちや、彼らから道場に送り込まれたスパイたちが入り乱れて展開するユニークなエピソードであります。
 原作では島田の息子で異形の怪人物・三次郎の婚礼の晩、皆が酔い潰れた中で、思わぬ形で密室殺人が発生して――という展開で、共通点としては道場に送り込まれるスパイ、宴会の晩に事件が発生という点くらいではあるのですが、原作で新十郎が敬服する島田を西郷に当てはめるというのは実にうまいアレンジと感じます(しかし内容的には、三次郎に当たるのが新十郎で、その嫁は――ということになるのかしら)

 さて、今回の物語展開自体は、実際に新政府が計画し、西南戦争勃発の引き金になったともいわれる西郷暗殺計画がおそらくモチーフと思われます。福原巡査のモデルは、この時の実行者と目される警視庁の中原尚雄なのでは――と思ったら、福原役の田上晃吉は『西郷どん』では中原を演じております。鹿児島出身の方なので、ある意味常連役者なのですが……。

 面白いのは、その実行者が新十郎ではないか、という演出になっていることですが――まあ、いかに西郷に含むところがあることが描かれ、勝からは西郷を殺しかねないと評されながらも、新十郎がそんなことをするはずがないことは、視聴者は百も承知であります。では誰が真犯人か――というのも一目瞭然で、クライマックスの一ひねりはあるものの、ミステリとしては今一つの印象は否めません。
 その分、今回は本作が原作に比べて濃厚に持っていた、明治ものの歴史ドラマとしての性格が前面に押し出されていた印象で、それは序盤とラスト、二度の新十郎と西郷のやり取りに集約されていたと言えるでしょう。

 幕臣の子であり、明治維新によって家族すべてを失った者として、維新に対して――そしてその立役者である勝と西郷に対して、事件に対する時とは別の意味で鋭い目を向けてきた新十郎。本作のほとんどのエピソードで描かれてきたのは、その明治維新による社会の変化に遠因を持つ犯罪であり、それを暴いてきた新十郎も、立場・心情的には犯人たちに近いものがあったと言えるかもしれません。

 そんな彼が西郷に思いをぶつけるのはこれが初めてではありませんが(その原因となった「リンカーンの影」での林肯会の姿が、今回の私学校と重なるのは興味深い)、しかし維新を評するに最初は「堕落」という言葉を使っていた新十郎が、ラストにはまた異なる態度を見せていたのは、やはり今回の――本作の肝というべきものでしょう。そしてそこに冒頭に引用される『堕落論』の一節が重なることは言うまでもありません。

 正直なところ、明治維新と第二次大戦後を重ねた原作の視点が、本作では明治維新に対するもののみとなっていたことに、最初は不満がありました。しかし原作ではある意味、維新/戦後社会の人格化のような存在だった新十郎に、この時代を生きた一人の人間としての個性を与えることによって、本作はまた新たなドラマを作り上げたのであり――最終的には大いに楽しませていただきました。

 この先も題材とする事件には事欠かない明治時代、ぜひこの先の新十郎たちの活躍を観たい――そんな気持ちになりました。


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