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2021.02.14

「コミック乱ツインズ」2021年3月号

 雑誌の号数とはいえ、もう3月という文字を見るとドキッとしてしまう「コミック乱ツインズ」3月号であります。巻頭カラーは『はんなり半次郎』、巻中カラーは『鬼役』という組み合わせ、さらに『軍鶏侍』と特別読切『隠居武者』が掲載されています。今回もまた、印象に残った作品を紹介します。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 こちらは今回も正月回。寝坊していたところを紅さんに起こされるというラブコメみたいな導入ですが、聡四郎としては吉宗の新年早々の熱いヘッドハンティングに気持ちは乱れるばかり。無手斎の道場での玄馬との試合でも気持ちの乱れが出たか――いや、ここはやはり玄馬の研鑽の結果というべきでしょう、玄馬が勝利を収め、師から小太刀で流派を興すことを許されるのでした。
 この辺りの無手斎の見事な指導者としての姿を見れば、やはり鬼伝斎とは器が違うとしか言いようがないと感じますし、その無手斎を感じ入らせる紅の包容力(?)の大きさもまた見事と言うべきでしょう。

 そんな紅と聡四郎がまた初々しいという感じなのと対極なのが、大人の情欲ドロドロな間部詮房と月光院の関係。正月早々大胆にも、という感じですが、その月光院の腹心というべき絵島が、生島新五郎と出会うところで今回は終わることになります。
 言うまでもなく、歴史に残る事件の当事者となる二人ですが、この出会いを仕組んだのが紀伊国屋――彼が何を狙うのか、それが今後の焦点ともなるでしょうか。


『隠居武者』(鶴岡孝雄)
 とある藩で、今日も鎧兜に身を固め、領内をただ一人巡視して回る老武士・細田権兵衛。一朝事あらばと警戒を絶やさない権兵衛ですが、内職に励む周囲はそんな彼を敬遠し、そして息子も無役でありながらあくまでも武士として振る舞い続ける父を軽蔑し、指物師を目指している有様であります。
 そんなある日、顔見知りの藩士・海原が妻子を殺し、屋敷に立て籠もったことを知る権兵衛。藩政を憂い、意見書を上士に提出すると言っていた人物が何故と、単身権兵衛は海原の屋敷に足を踏み入れるのですが……

 特別読切の本作は、おそらく江戸時代前期、武士が戦士から官僚になってしまった時代を描く物語。とっくに時代遅れになってしまい、家族をはじめ周囲に理解されない古武士が活躍して――というのは、ある意味定番のパターンですが、本作の場合それを踏まえているようでいて、権兵衛と相似形のもう一人の武士が起こした悲劇を描くことで、彼が自身を顧みる形となるのが、独自性と言うべきでしょうか。

 権兵衛と海原の同じ点、異なる点、そして二人を分かったのは何なのか――そんなことを考えさせる物語はどこまでも苦いものではありますが、それだからこそたどり着ける結末には、一筋の光が感じられるのです。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 白子屋の残党との戦いと、梅安の友人・清助を襲う危機が並行して描かれる「梅安影法師」の第四回。今回は前半で、何者かに命を狙われ、別人のように憔悴してしまった清助がこのような状態に至った理由が描かれ、そして後半では、大坂から送り込まれた二人の刺客のうち残る一人・三浦十蔵と梅安の対決が描かれることとなります。

 もう一人の刺客である石墨の半五郎が、患者に化けるという策を用いた(その末にほとんど自爆した)のに対し、相手と呼吸を合わせ、一瞬の隙を突くというシンプルな、しかしプロとしての説得力十分な手段を用いる三浦(趣味が釣りというのもまたこの技の説得力を補強しています)。
 それに対する梅安の対応は――これはもう、踏んできた場数の差としか言いようがないでしょう。プロとプロの戦いはこういうところで決するのだろうな、と感心しつつも、家がバレていて何度も襲撃を受けている状況で、まだ住み続ける梅安も大概だなあと思わなくもありません。

 さて、実はこの辺りで物語は原作を離れているのですが――さて、この先どのような展開を迎えることになるのか。オリジナルキャラ(おそらく原作のあのキャラのアレンジだとは思うのですが)も登場する模様で、いよいよ先が読めない物語であります。
(まあ、それを言ったらさいとう・たかを版の方は……)


 次号は新連載で重野なおきの『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(なんというタイトル……)がスタート。『暁の犬』と『カムヤライド』の復帰のほか、『かきすて!』や『風雲ピヨもっこす』も掲載される模様です。


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