赤名修『賊軍 土方歳三』第3巻 天海の「秘中の秘」 日本南北戦争勃発!?
近藤亡き後も不屈の闘志で戦いを続ける土方と仲間たちを描く本作もこれで第3巻。戦闘力では決して劣らぬものの、戴く者のない奥羽越列藩同盟の現状に歯噛みする土方ですが、そこに驚くべき打開策が。果たして天海僧正「秘中の秘」とは――そしてその実現のために一人の隊士が命を燃やすのです。(内容に踏み込んでいますのでご注意下さい)
沖田総司を亡くなった小姓の市村鉄之助と名乗らせ、京で近藤の首級を奪還するなど、各地でやりたい放題の大暴れを繰り広げる土方と新選組生き残りの猛者たち。白河口の戦いでは近藤の「仇」を討ち、快勝した土方たちですが、しかし戦いはまだ始まったばかりであります。
ここで新たな力である最新式のスペンサー銃を使いこなそうとする土方の前に現れたのは、何とあの山本八重。しかし彼女は土方を兄・覚馬の仇と呼んで……
と、いきなり波乱含みで始まるこの巻ですが、一体どうなることかと思えば、そこから描かれるのは池田屋事件の直後から始まる土方と覚馬の物語。一触即発となるようにみせて、士は士を知る、という展開となるのが何とも気持ちいいのですが――しかし士を知るのは何も幕府方だけではありません。
覚馬救出作戦を密かに遂行していた(本当に何でもやってる)新選組の前に現れた薩摩の男、その名は西郷隆盛――というわけで、ここで本作では初登場の西郷ですが、器の大きさを見せつつも、しかし同時に得体の知れなさを感じさせる描写に納得であります。
そして会津での激闘が続く中(沖田の「死」についてちょっとドッキリな描写もあったりして)、奮戦を続ける土方ですが――彼にとっては痛恨としか言いようがないのが、奥羽越列藩同盟にはシャッポが――いただく頭が存在しないことであります。
鳥羽・伏見の戦いの敗因をシャッポが真っ先に逃げたことと語る土方にとって(ここで逃げたシャッポ――慶喜のことをボロクソに言うのが実に痛快)、シャッポがいない今の状況は、何とも歯がゆい状況なのですが――しかし彼の想いに応えるように、とんでもない事態が動き出すことになるのです。
その事態が動き出したのは江戸は上野・寛永寺。その寛永寺の門跡こそは、輪王寺宮――歴とした帝の血を引く、皇族であります。そしてこれこそが、実に250年前、天海僧正が幕府が窮地に陥った際に用意しておいた「秘中の秘」! そう、幕府に対する者たちが京の帝を奉じた際に、幕府もまた、東の帝を報じる――それこそが輪王寺宮の真の役割だったのであります。
そして新政府軍がこの輪王寺宮奪還に動くのに立ち塞がったのが、前巻に登場した竹中重固が参加していた彰義隊。そして彰義隊といえば、新選組絡みで絶対忘れてはいけない男がいるではありませんか。
言うまでもない、それこそは原田左之助――この時は近藤・土方と袂を分かち、独自行動を取っていた原田ですが、そんな時でも集う旗は一つ、土方のためにと立ち上がる新選組十番組隊長・左之助の死闘こそは、この巻のクライマックスであることは間違いありません。
その戦いの結末は――ここで言うまでもないかと思いますが、左之助の戦いが、ある歴史の動きを生み出したと言っても過言でないことを思えば、彼は途方もない戦果を挙げたと言えるでしょう。
そして寛永寺を脱出し、奥羽越列藩同盟に迎えられた輪王寺宮は東武皇帝を名乗り、日本はそれぞれの帝を報じる南北二つの国家が並ぶシビル・ウォー状態に……
いやはや、まさかここまでフルスロットルで飛ばしてくるとは思いもよらなかった――と言うしかありません。それなりに知られてはいるものの、色々な意味であまりに過激すぎるともあってか、フィクションでも滅多にお目にかかれない東武天皇即位。その「異説」をここで堂々と投入してくるとは!
ただでさえ暴れまくりの土方が、このとてつもないシャッポを得てしまった時どうなるのか――いやはや、想像するだけで震えます。
しかしもちろんこの動きを、正史の側が黙ってみているはずがありません。この巻のラストで描かれるのは、勝海舟が、そして西郷隆盛が――旧幕府と新政府の実質トップが手を組んで、あってはならない歴史を阻まんとする姿。
果たしてこの先、土方の戦いは、そして歴史はどこに向かうのか――この先に待つのは、想像を絶する物語であることは間違いありません。
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