« 操觚の会『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(その1) 早見俊・川越宗一 | トップページ | 操觚の会『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(その3) 秋山香乃・谷津矢車 »

2021.02.10

操觚の会『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(その2) 鈴木英治・荒山徹・木下昌輝

 歴史・時代小説家集団・操觚の会と栃木県さくら市のコラボレーションにより生まれた「古河公方から見た関東戦国史」を描くアンソロジーの紹介の第2弾であります。

『天の定め――国府台合戦』(鈴木英治) 1538年 足利晴氏
 小弓公方・足利義明との決戦に臨み、北条氏綱の娘・薫姫を正室に迎える条件で彼の加勢を得た晴氏。国府台城の義明に打ち勝った晴氏ですが、北条家に家督を簒奪されることを恐れ、薫姫を疎んじるのでした。
 それでも一度は薫姫を慈しんだものの、彼女の懐妊に恐怖に駆られた晴氏は、さくら忍びに彼女を堕胎させるよう命じるのですが……

 古河公方の分家でありつつも一代で勢力を伸ばし、下総小弓を本拠とした小弓公方。本作の前半で描かれるのは、今の千葉県市川市で繰り広げられた小弓公方との国府台合戦の様であります。舞台に相応しくマイナーな合戦ではありますが、しかしこの合戦で勢力を新調した氏綱が、その後実質的に古河公方を取り込んだことを考えれば、本書においては重要な意味を持つと言えるでしょう。

 その一方で、後半に描かれるのは、その北条氏による簒奪を恐れ、もがいた末に子殺しを決意する晴氏の姿なのですが――その複雑な人物造形が面白い。元々嫡男の幸千代王丸(後の藤氏)を愛するだけでなく、義明の子・国王丸にも情けをかけるような晴氏が、家のために鬼となる道を選ぶ――という展開の果ての皮肉な結末は、人間という存在の持つややこしさをよく表していると感じます。
 そしてさらに、そこから更に晴氏が想到する古河公方家のある「伝統」と、それに対する晴氏の決意もまた壮絶であります。

 戦国ものでデビューし、人情要素の強い江戸もので活躍する作者ならではの一編です。


『宿縁――河越夜合戦』(荒山徹) 1545年 足利晴氏
 山内・扇谷の両上杉家と結び、北条氏康に反旗を翻した晴氏。劣勢を覆すべく夜襲を計画する氏康配下の風魔小太郎は、城下にさくら一族の不二丸が潜入したとの報を受け、配下の七忍衆とともに追うことになります。
 しかし彼らを一蹴した上で、小太郎に驚くべき提案をする不二丸。実は晴氏の反北条の姿勢に反対する不二丸は、晴氏を隠居させるために、小太郎を通じて氏康に接近しようとしていたというのですが……

 氏康の鮮やかな奇襲攻撃で知られる河越夜戦の裏面史とでもいうべき本作は、しかし冒頭から初代不二丸と源義家の会話という意外な場面からスタート。その後もオドロ怪奇な名前の風魔七忍衆の登場(しかも弱い)など、作者らしい意表を突く展開が続きます。
 しかし真に意表を突かれるのはこれから――何しろ、これまで一貫して古河公方への忠節ぶりが描かれてきた不二丸が、主を売るに等しい行動を見せるのですから。

 しかしそれは、当代の不二丸にとって晴氏ではなく「足利の血脈」こそが仕える相手と考えるゆえ。確かにその後の歴史を見れば、ここでの不二丸の選択は正しかったのかも知れませんが――やはり結果論に見えてしまうのも否めません。
 何より風魔小太郎への不二丸の提案が無茶すぎて、そのおかげで第五話以降にさくら一族が大変な目に遭うこともあり、何ともすっきりしないものが残る物語ではあります。


『螺旋の龍――足利義輝弑逆』(木下昌輝) 1565年 (足利藤氏)
 主家が後北条家に取り込まれたのに伴い、風魔一族の支配下に置かれたさくら一族。風魔小太郎から幸千代王丸の身を楯に室町公方暗殺を命じられた不二丸は、一族の技の失伝の危機に陥った時に用意された、陰桜の一派の存在を知ることになります。
 足利学校に潜む陰桜中の麒麟児の手を借り、不可能事に挑む不二丸が見たものは……

 というわけで悲惨な境遇に甘んじることとなったさくら一族。第五話では、足利は足利でも、京の義輝暗殺という難事に挑むことを強いられるのですが、しかし既に独自の術すら奪われた一族に打つ手は――というところで、陰の流れが登場する展開が実に熱い。
 しかも陰桜の助っ人の正体が意外な人物なのが面白いのですが――彼もまた、作者の作品にしばしば登場する「怪物に作り変えられた人間」である点が、苦いものを残します。

 しかしそんな苦さがあるからこそ、陰桜の者たちが見る龍の夢の驚くべき正体と、古河公方が辿る未来の姿が重なり合う結末からは、不思議な感動が生まれます。そしてその先にある、陰桜の者たちへの救いもまた……
(しかし本作、作者の『まむし三代記』を読んでいるとまた違った印象が生まれるのですが――彼も苦労したのだなあ)


 もう一回続きます。


『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(秋山香乃ほか PHP研究所) Amazon

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 操觚の会『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(その1) 早見俊・川越宗一 | トップページ | 操觚の会『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(その3) 秋山香乃・谷津矢車 »