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2021.02.03

波津彬子『雨柳堂夢咄』其ノ十七 変わることなく品揃え豊富な人と骨董品の物語

 発売から2年以上ご紹介が遅れ大変恐縮ですが、ついに今月最新巻が刊行ということで、慌てて紹介いたします『雨柳堂夢咄』其ノ十七。雨柳堂に集まる骨董品と人間を描く物語の魅力は、巻を重ねても変わることはありません。

 大きな柳の木が目印の骨董屋・雨柳堂を舞台に、老店主の孫・蓮少年を狂言回しとして、1991年の連載開始から描き継がれてきた本作。この巻でもこれまで同様、連作スタイルで様々な物語が描かれることになります。

 掘り出し物が眠っているという老兄妹の家を訪れた蓮が、一枚の盤を前に意外な真実を告げる「斜陽の家」
 普通の人が感じないものを感じる力を持っている按摩が、蓮の言葉から幼い頃よりの真実を悟る「初午の日」
 骨董屋ばかり三軒続いた火事の前後に目撃される赤い振袖の幼女と、それらの店で奉公していた少女の謎「火伏せの姫」
 妻が物わかりがいいことに女道楽を重ねる主人が、花魁を描いた絵に魅入られる「画中佳人」
 既に亡くなった親友から、人生の節目節目に手紙が送られてくる青年が知った真実「手紙」
 人生に挫折しかけて夜道を彷徨う人々が、賑やかに宴会に興じる三匹の猫に出会う「冬の宴」
 雷が苦手な青年が、茶会に向かう途中に雨宿りした雨柳堂で、謎の美女から一本の扇を託される「雷の声」
 没落家族の名を利用した骨董品詐欺に巻き込まれた少女が、不思議な存在に導かれる「明け方の花」

 収録されたこれら全8話は、いつものことながら(という言葉を毎回使ってしまうのですが)ため息がでるほどバラエティに富んだ内容で、興趣に満ちた物語を存分に堪能させていただきました。
 そして個人的にその中でも特に印象に残った作品を挙げれば、「斜陽の家」と「手紙」になります。

 「斜陽の家」は、家の蔵の美術品を売り食いしてきた、人の良さげな老兄妹の語りを中心に展開する物語ですが――その語りに蓮が加わり、そしてかつてこの家にあったという盤を兄妹に見せたことから、物語が思わぬ方向に展開していくことになります。
 ある意味、『雨柳堂夢咄』の愛読者であるほど驚かされるようなこの物語、何とも言えぬえぐみが後に残る異色作ですが――意表を突いたクライマックスはもちろんのこと、そこに至るまでの語り(構成)の妙も含めて印象に残る作品です。

 また「手紙」は、かつて共に夢を語りながらも夭逝した親友から、自分や弟妹の人生の節目節目ごとに、それを祝う手紙が送られてくる――という、描きようによっては不気味な怪談にも、ジェントル・ゴースト・ストーリーにもなり得る物語。
 言うまでもなく本作は後者なのですが――それまで必ず送られてきた手紙が、何故か「途中」で止まってしまうという捻りが加わり、そこに蓮が登場することで真相が明らかになるという展開の巧さに痺れます。

 もちろんそれも、幽冥境を異にしてもなお結びつく友情と、それを手紙を道具立てに描くという、もの悲しくも美しい設定あってこそ。こちらはある意味、実に『雨柳堂夢咄』らしい物語と感じます。


 というわけで予習(?)も終わり、後は最新巻を待つのみ。余韻を楽しみつつ、今はさらなる人と骨董品を巡る物語を楽しみにしているところなのです。


『雨柳堂夢咄』其ノ十七(波津彬子 朝日新聞出版Nemuki+コミックス) Amazon

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