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2021.02.01

『明治開化 新十郎探偵帖』 第7回「終局の一手」

 士族たちの叛乱が相次ぐ中、下野した西郷。同じ薩摩の千頭津右衛門と囲碁を打っていた速水大警視は、千頭が士族の現状を憂い、私財を手に西郷の下に向かうと語るのを聞くが、その直後、千頭は苦悶し死んでしまう。千頭が最後に指さした方角にいたことから、速水も一時は疑われるが……

 いよいよ物語も終盤に向かう本作、原作は『安吾捕物帖』の(奇しくも同じ)第7話、「石の下」ですが――登場人物名と物語の根幹となる部分以外は、ほとんどすべてアレンジを加えられた内容となっております。

 廃刀令によって刀を奪われ、困窮し物盗り同然にまで落ちぶれた者も現れ始めた士族。彼らの不満が高まり、各地で叛乱が起きるようになった昨今――前回描かれた西郷の下野により、状況はいよいよ不穏なものとなっていきます。
 そんな中、同じ薩摩の友人であり、碁敵の千頭津右衛門のもとを訪れ、烏鷺を戦わせていた速水大警視は、現状を憂える千頭が、商売を成功させて得た多くの富を手に、西郷の下に馳せ参じようとしていると聞かされることに。が、その直後、妻の千代が持ってきた好物の汁物を口にした途端、苦悶の表情を浮かべ、血を吐いて倒れた千頭。ところが彼が事切れる寸前、対面していた速水の方を指さしていたことから、速水は容疑者として捕らえられる羽目になります。

 もちろんこの状態に黙っているはずもなく職権を振るって飛び出し、自ら陣頭指揮に当たる速水。同じく調査に当たっていた新十郎は、千頭と仲違いし、その金を狙っていた大工の勘八、修験者の志呂足、元士族の天鬼という三人の容疑者の存在を知るのですが――折しも勘八が残る二人に殺されたことから、三人が千頭の財産を狙って彼を毒殺し、仲違いを起こしたことが判明します。
 こうして殺人事件の謎はあっさり解明されたものの、千頭の最期の仕草が、財産の在り処を示すものではないか――ということになって家探しを始める速水たち。その一方で、新十郎はこの時の棋譜に注目するのですが……


 というわけで、犯人捜しは早い段階で解決して、新十郎言うところのダイイングメッセージ解読が中心となる今回。非常に面白いのは、この辺りの構造が原作では正反対であることです。

 原作では本当に冒頭部分でこのダイイングメッセージが解読されてしまい、それ以降は千頭家を巡り集まってくる怪しげな面々の間の人間模様が展開。原作では天鬼は千代の兄で千頭家の財産を狙う悪党、志呂足は千頭家に入り込んでくる不気味な新興宗教教祖、そして甚八(何故か本作では勘八に変更)は、本作における速水の役回りなのですが――いつものことながら醜いエゴまみれの人々の描写自体は面白いものの、物語としてもちょっとすっきりしない内容で、そこは本作のアレンジが大正解であったと感じます。

 さらに、今回容疑者扱いで一種のコメディリリーフかと思われていた速水の存在が、ラストになって大きな意味を持ってくるのも巧みなところで――なるほど、だからこそ速水が千頭と碁を打っていたのか! と感じ入った次第。これまでのエピソードとはまた異なるベクトルで事件と歴史が結びつくのには感心させられた次第です。

 その一方で、これまで同様、大きな歴史の流れも並行して描かれるわけですが――西郷下野の先に何が待っているか、それは言うまでもないでしょう。勝も江戸城無血開城の折のことを買われ、西郷との交渉を大久保から依頼されますが、しかしそんな彼でも西郷を説き伏せることはほとんど不可能――というくだりは、事態が抜き差しならなくなったことを否応なしに感じさせてくれます。
 そして何だかんだ言いつつも、士族のことになると冷静ではいられない新十郎が、勝に対して激しい感情をぶつけるラストも見所。勝のある意味大人の反応を受けて、とんでもないことを言い出すのですが――果たして次回最終回で何が描かれるのか、これは猛烈に気になるところであります。

(しかしここで勝が、俺でも何でもお見通しではない、というようなことを言うのですが、原作のような勝の迷探偵ぶりが本作ではあまり描かれなかったのは、もしかしてこの時のためだったのか――というのは穿った見方でしょうか)


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