藤本ケンシ『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』第1巻 信長、ループものの主人公に!?
織田信長を題材とした物語といえば、クライマックスは本能寺――というのはまず当然の成り行きではありますが、本作は本能寺の変から始まる物語。それもタイトルの通り、信長が何度もタイムリープを繰り返すループものという、個性的にもほどがある作品であります。
天正十年、本能寺滞在中に明智光秀の謀反にあった織田信長。信長は、光秀であれば是非もなし、と従容として死に向かう――わけもなく、散々荒れた挙げ句、絶対生き延びてやると誓うのですが、その直後にあっさりと命を落とすのでした。
次の瞬間、どこともつかぬ空間で目覚めた信長の前に現れたのは、やたらと生意気な口を利くクマ――の着ぐるみをかぶっているらしい人物。天正10年に信長が本能寺で死ぬことは運命であり正史と語るクマは、しかし信長にやりなおしさせてやると言い出すのでした。
そしてまた次の瞬間、信長が目覚めてみれば7年前、岐阜城での軍議の場。そこで光秀の顔を見た信長は、本能寺の記憶を甦らせると、いきなり光秀を手打ちにしてしまうのですが――また時は飛び、再び本能寺の炎の中に信長は立っていたのであります。
確かに光秀は斬ったものの、代わって本能寺を攻めてきたのは柴田勝家。再び7年前に飛んだ信長は、今度は勝家と光秀を斬ったののの、三度目の本能寺には秀吉が攻めてきてまた死亡、の運命を辿るのでした。
そう、謎のクマから、死ぬたびに時をやり直し、本能寺での死を回避するための機会を与えられた信長。裏を返せば、戻った時で選択を誤れば、待っているのはすなわち本能寺での死なのであります。
そのルールを理解した信長は、今度こそはと7年前に戻るのですが、体に染み付いたブラック君主ぶりは全く治ることなく、まさにタイトルどおり「何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが」という目に遭う羽目に……
信長が本能寺で死なず密かに生き残ったり、タイムスリップして別の時代に行ったり、はたまた転生したり――というのはしばしば(?)見かける話ですが、この通り本作は、何度も信長が過去を繰り返して未来に待ち受ける死を避けようというループものであります。
未来を変えるために何度も過去に戻ってやり直す、というのは、これまたよく見かけるパターンですが、それを信長でやったのはおそらく本作が初めてではないかと思います。
もちろん、そうそう簡単に正解を見つけられるはずもなく、なにかする度に碌でもない方向に転がっていくのはもはやお約束。
クマからもらった「誰一人として人間を殺すな」とヒントのおかげ(?)で岐阜城軍議の場はクリアしたもののその直後――のシーンは、あまりに予想外かつ衝撃的で、ある意味この第1巻のクライマックスといえるかもしれません。
(その後の顛末もまたあまりにヒドすぎて笑うしかない)
しかし無茶苦茶をやっているようで、どこに伏線が隠されているかわからないように見えるのがまた面白い。現に(この第1巻ではまだわからないのですが)過去での信長の行動が、全く思わぬ形で「現在」に作用するのには驚かされます。
そしてまた、フッと思わぬ形で、物語の中で長宗我部の存在が言及されるのも面白く、ああ、オキザリスの旗だから――じゃなくて、いわゆる「四国説」をこういう形で盛り込んでくるか、と感心させられた次第です。
もっとも、ループものだからといって、あまり同じ場面を繰り返すのも飽きが来るわけで、さじ加減が難しいのは言うまでもありません。そしてそのループから抜け出す理由に、如何に説得力を持たせるかも。
この難題を、ギャグを交えつついかにクリアしてみせるのか――本作のその試みはまだ端緒に着いたばかりかと思います。
とりあえず、一歩踏み出すことができたかと思いきや、さらにとんでもない方向に進んでしまった信長。彼がこの巻のラストからの歴史をどうクリアするのか、はたまたしないのか――まずは次の巻を待ちたいと思います。
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