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2021.03.02

岡村星『テンタクル』第2巻 危うし杖術 驚愕の問題児出現

 上意討ちをきっかけに不可解な陰謀の世界に踏み込んでしまった杖術使いの青年・津春を主人公とした時代アクションの続巻であります。親友を斬った恩師を倒したものの謎は深まる中、津春の前に現れた奇怪な男女。果たして津春の真の敵は誰なのか……

 側用人・黒田に命じられた上意討ちをきっかけに、福岡藩内で密かに進む陰謀に巻き込まれた心優しき医学生の津春。しかし藩の世継争いと思われた事件は不可解な方向に進展し、共に上意討ちに加わっていた幼馴染の聡吾は、恩師の児玉に斬られることになります。
 自分にも襲いかかる師の示現流に、神道夢想流杖術で辛くも勝利した津春。しかし陰謀の正体を語ることなく児玉は自害、津春は真相を知るために謎の敵に挑むことを決意するのでした。

 そしてこの巻の冒頭では、上意討ちの際、津春たちが謎の美少女・周子から奪取した摂家の家紋が入った刀を巡り、いかにも一癖有りげな男・寺内が津春の前に現れます。
 上意討ちの直後、世継暗殺の企てが露見して自害した黒田の隠密を名乗る寺内。周子を奉じる一派に加わっていたという彼は、身の庇護を求めて、実質大目付・曾我の下で動く津春に接触してきたのであります。

 全ての謎の鍵を握るという寺内との接触を決意した曾我の命で、寺内の妻・十和の保護に向かう津春。しかしその時既に、陰謀の一派の報復の魔手は十和に及び……

 というところで、何だか嫌な方向に物語が進むのかな、と思えばさにあらず、全く思いもよらぬ方向に物語は展開することになります。
 過去に起こしたある事件がきっかけで曰く付きの十和が、自分に迫る暴漢たちを前に起こした行動とは――いやはや、興を削がないように書くのは難しいのですが、予想していなかった、とは言わないまでも、ここまでやるか、と驚かされます。

 いや、真に驚かされたのは、その行動ではなくその精神性というべきでしょうか。この巻の冒頭でその愛妻家ぶりが描かれた寺内の、そのあまりに身もふたもない表現に、こいつ(寺内)はこういう奴なのかと思いきや――本当に彼が言ったままだったとは、良くも悪くも衝撃を受けた次第です。


 そんな大暴走のおかげで物語の本筋が頭から吹き飛びかけましたが、ここでようやく明らかになる陰謀の背景。その背景とはアメリカ艦隊の日本来航計画、いや、その計画を知らされつつも何ら動こうとしない幕府の存在であり――そしてそれに対する九州諸藩の動きであります。

 果たしてそれがどのようにこの陰謀につながるのか――という点については、津春の知っている情報と読者に知らされている情報がイーブンではない点が、気になるところではあります。(要するに、津春には謎となっている部分が、読者にはそうではない)
 また、現時点では津春が福岡藩とほぼ同じ立場で動いている――すなわちほとんど藩そのものが後ろ盾となっている――点は、巨大な陰謀に挑む物語としては、緊迫感を削ぐ形となっている点は否めません。

 しかし、物語がどこに向かっていくか、そしてどこに落着するかは、まだ全く闇の中であります。もちろんその中で、津春がどこに向かっていくのかも。
 今はまだ、聡吾の、そして聡吾を殺すよう命じられた児玉の仇討ちという、ある意味パーソナルな動機で動く津春の存在が、この巨大な陰謀、いや巨大な歴史のうねりの中でどのような意味を持つのか――今回登場した問題児二人組の動向も含めて、気になるところであります。

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