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2021.03.18

高橋留美子『MAO』第8巻 激突する獣たち 菜花大奮闘!

 平安と大正を結ぶ呪いと因縁のアクションホラーの第8巻であります。かつて摩緒の許嫁であった紗那の死を巡る謎がいまだ解けぬ中、新たに展開するのは、通り魔事件の背後に蠢く謎の獣の存在。その獣を掌中に収めるべく、この巻の表紙を飾る金の術者・白眉が暗躍することに……

 呪禁道・御降家の宗家選びの儀式をきっかけに、平安から大正に至るまで生き続けることになった摩緒と五人の兄姉弟子。その一人・木の術者である華紋が、過去の因縁から海底の社で水の術者・不知火と激突するのを、摩緒と菜花、そして土の術者・夏野は助けることになります。
 そしてそこに再び現れたのは、不知火側で暗躍する謎の女・幽羅子。紗那と瓜二つの容貌を持ち、そして奇怪な黒い邪気を操る彼女に対し、夏野は思うところがあるようで……

 という前巻の引きから続くこの巻の冒頭で描かれるのは、夏野が語る「あの夜」――摩緒が裏切り者として追われ、そして彼の師が、そして紗那が死んだ夜のこと。これまで一門の生き残りの間では、摩緒が殺したと語られていた紗那の死の真実を、夏野が語ることになるのです。

 しかしそれは、また新たな謎の始まりでもあります。紗那を殺したモノは何者なのか。そして幽羅子との関係は。物語が一歩進めば、真実は逆に一歩遠のくような――そんな本作ならではの、もどかしくもそそられる展開は、ここでも健在なのであります。


 そしてこの一件がもとで微妙な隙間風が吹くようになった菜花と摩緒の微笑ましい一幕を経て、この巻のメインとも言うべきエピソードが描かれることになります。

 町を騒がす、獣に引き裂かれたかのような犠牲者が相次ぐ通り魔事件。その犯人こそは、先祖代々、ある獣をその身に宿して使役してきた加神家の長男だったのです。
 そしてその弟である少年・双馬は、兄の体を乗っ取って暴れる獣と対峙するのですが――力及ばずに深手を負い、摩緒に助けられることになります。

 あの幽羅子と似た邪気を感じさせる獣を追う摩緒。そしてその一方で、双馬も獣の力に魅せられ、やはり後を追うことになります。そして双馬の前には、あの金の術を操る怪軍人・白眉が現れ……

 と、ここで登場する兄弟子の一人・白眉。奇怪な金属の式神を操り、大正の世では軍部に身を置いて暗躍、摩緒や百火の命を狙ってきた白眉ですが――この巻の冒頭での夏野の言葉もあり、これまで登場してきたキャラクターたちの中では、最も黒幕感が漂う人物であります。
 そしてこのエピソードでは、白眉の野望の一端が描かれ、それが「二体」の獣の、いやもう一人、獣の力を宿す菜花の激突を招くのです。

 正直に申し上げれば、今回のエピソードは、これまでのものに比べると、物語の本筋から(現時点では)少し離れたところにあるように感じられる内容ではあります。
 ここのところどうしても平安組に焦点があたってしまい、ちょっと影が薄く感じられた菜花がですが、その彼女がここに来て大奮闘を演じてくれたのは、嬉しいことではあります。(先に述べた微笑ましい一幕も含めて、少しずつ摩緒との絆が深まっているのも、また嬉しく感じられます)

 その一方で、力に惹かれ、溺れる双馬のような存在も、不死者・術者たちが入り乱れる本作においては、また独特の輝きを放って感じられるところです。


 そしてこの巻のラストでは、また新たな怪事件が発生。戦前の怪奇小説のような実に厭なシチュエーションから始まるこのエピソードの中心になるのは、姉弟子・夏野の様子であります。
 一番最後に登場したということもあり、まだまだ謎の多い夏野。彼女のいかなる顔が描かれるのか――またもや続きが楽しみな展開であります。


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