« 「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その二) | トップページ | 高橋留美子『MAO』第8巻 激突する獣たち 菜花大奮闘! »

2021.03.17

藤田かくじ『徳川の猿』第3巻 裸体の狂戦士、その過去!

 徳川家斉の時代、幕府転覆を狙う謎の集団・天狗が次々と引き起こすテロに立ち向かう女性ばかりの特殊部隊・猿の死闘を描くバイオレンスアクション第3巻です。大奥の女性たちを支配する怪僧・日啓暗殺の命を受け、江戸城に潜入したものの、正体が露見して危機に陥った猿の面々の運命は……

 海外の勢力とも手を結び、次々と凶悪なテロ事件を引き起こす「天狗」。父を天狗によって殺された少女剣士・鈴は、目・耳・口うちjが不自由ながら異常なまでに強力な格闘術を操る異形の娘・月に助けられ、「猿」に加わることになります。

 そして司令官である女装の美青年・吉村黄金(実は遠山金四郎)からの今回の指令は、大奥に潜み、将軍家斉の愛妾・お美代の方をはじめとする女性たちを虜にしているという怪僧・日啓の暗殺。
 かくて大奥に潜入した鈴と月たちですが、味方であったはずの中臈・お眠こそは日啓の手先であり、一転、捕らわれて彼の性の饗宴の生贄に供されることになってしまいます。他の猿のメンバーたちとも分断され、孤立無援となった鈴たちの運命は……


 と、物語が始まって以来の窮地に陥ることとなった猿。麻薬と性技で大奥を支配する怪人・日啓、催眠効果を持つ剣法を操る混血の美女・お眠(もちろんモチーフはあの人)という強敵だけでなく、潜入の際に、大奥の女たちに少しでも傷を追わせたら黄金の首が飛ぶ、という枷を嵌められた状態で、もはや打つ手なしとしか思えません。

 ――と言いたいところですが、ここで異常なまでにファイトを燃やすのが月。実は日啓こそは彼女の怨敵の、彼女を今の境遇に貶めた一人だったのであります。そんな裸体の狂戦士にとって枷に意味はなく、遠慮会釈もなしに女たちをぶっ飛ばして日啓に迫るのでした。
 いやはや、そんな打開策があるかい、と言いたいところですが、しかしこれはこれで(あまり大きな声では言い難いですが)ある意味爽快感のある展開ではあります。

 しかしその先に繰り広げられる月と日啓の対決は、月の怨念が籠もっているだけに凄惨な展開を迎えることとなります。
 相手を倒すのではなく殺すという執念の下、マウントを取って相手をボコボコに殴る、落とすのではなく殺す気で締める――そんなプリミティブな死闘は、両者がほとんど裸の状態でという妙なシチュエーションで繰り広げられるだけに、どのようなリアクションを取ったら良いのかわからなくなる、ある意味名勝負であります。


 そして大奥編も終結し、この巻の後半では、鈴、そして月の過去が語られることになります。曲者揃いの猿の中では、戦いの動機・技ともどもある意味真っ当過ぎるだけに、これまで今ひとつ役に立ってこれなかった鈴。そんな彼女の前に現れたのは、亡き父の弟子であり、姉弟同然に育った相手、そして許婚である青年・不動であります。
 温厚な好青年に成長した不動を前にした鈴ですが、しかし彼女は、すぐに残酷な真実を知ることになるのです。

 そしてその痛手から醒めやらぬま幕府から流出したある品を求め、黄金の供で盗品市を訪れた鈴は、その品を賭けて、あのお眠と再戦することに……
 と、何かと強烈すぎる月に比べると、主人公ながらも一歩も二歩も引いた立ち位置にあった鈴も、この巻の後半において、自分の過去を乗り越えることを求められることになります。そしてその過程で自らの真の力に目覚め――という王道展開が気持ちいいのですが、しかしインパクトの点で全てを持っていくのは、やはり月の過去なのです。

 盗品市での戦いの裏で発生した、月の妹分であり、彼女の目・耳・口代りである少女・犬千代襲撃事件。そしてその流れを受けて、犬千代の意外な出自、そして月との出会いと彼女の過去の姿が語られることになるのですが――それがまた凄惨というよりも陰惨の一言。
もちろん、あの月に、穏やかな過去があるはずもないのは承知の上であり、そしてバイオレンスものである本作にはある意味相応しいものであるかもしれませんが――個人的にはかなり引いてしまった、というのが正直なところであります。

 他の猿のメンバーが基本的に時代劇ヒーローのパロディキャラであり、どこか陽性のものがあるのに対して、ひたすら陰性の月のキャラはそろそろキツくなってきたなあ――という印象は否めません。
 盗品市の主や、競売に賭けられたアイテムの正体など、伝奇ものとして面白い要素も色々とあるだけに、ちょっとどう受け止めるべきか――考えさせられた次第です。


『徳川の猿』第3巻(藤田かくじ 双葉社アクションコミックス) Amazon


関連記事
藤田かくじ『徳川の猿』第1巻 テロルに挑む女性戦士たちのバイオレンスアクション
藤田かくじ『徳川の猿』第2巻 新たなる天狗、その名は相馬……

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その二) | トップページ | 高橋留美子『MAO』第8巻 激突する獣たち 菜花大奮闘! »