「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その一)
号数の上ではもう新年度(怖)の「コミック乱ツインズ」4月号は、表紙は『勘定吟味役異聞』、巻頭カラーは『侠客』です。また新連載に『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』、特別読切やシリーズ連載の新作も計3本と、フレッシュな内容となっています。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
今回のメインとなるのは、絵島生島事件――月光院付きの年寄である絵島が、代参の帰りに生島らと宴会に興じ、大奥の門限に遅れたことが大問題となったあの一件。ほんのわずかな気の緩みが、月光院と彼女と通じた間部詮房サイドにとって大ダメージを与えることになります。
しかしこれを仕組んだのは、柳沢吉保の意を受けた紀伊国屋文左衛門。既に余命幾ばくもない状況で、次代の将軍位争いに干渉しようとする吉保ですが……
というわけで、以前から紀文が仕掛けていたトラップが発動、あの大奥最大のスキャンダルが勃発するわけですが――今回前半を費やして丹念に描かれたそれは、巷説からすれば「えっ、このくらいで?」という内容。もっとドロドロな感じのアレかと思いきや、これのレベルの中身で、死者まで出る騒動に発展するとは――逆に幕府の法の苛烈さに驚かされます。
しかしそれだからこそ、事件――いや事件をある意味引き起こした幕府の政に対する紅の嘆きと怒りが籠もった「馬鹿」が胸に響くことは間違いありません。そしてそれを耳にして、素直に紅のものの見方を称賛(ある意味一ヶ月遅れなのですが)できる聡四郎も良い感じで、やはりお似合いの二人だと、微笑ましく感じつつ納得してしまうのです。
もっとも、ファン的には今回のハイライトは、その後の紅さんのリアクションなわけですが!
そして後半ではこの事件を仕組んだ紀文と吉保の会話が描かれますが、印象に残るのは、吉保ですら一種のコマとしか思っていないような紀文のトリックスターぶり。そんな本作の鬼札に対して、もう一人の鬼札が接触してきて――という何とも気になるヒキで続きます。
『芝神明のヤバ女』(芳家圭三)
タイトルを見て一瞬驚かされますが、ヤバとは「矢場」――浮世絵等にも残されている芝神明の矢場で働く女性たちを主人公としたお話であります。
遊戯場兼風俗店(作中のあまりに身もふたもない例え話にひっくり返る)である矢場で、だらだら祭りの時に開催される男女一組で一張りの弓を射るコンテスト「交競射」を舞台とした人情譚(艶笑譚)と言うべきでしょうか――矢取女たちが、賞金目当てに繰り広げるパートナー探しと、そのパートナーを伴っての大会での勝負の模様が面白いのですが、さらにそこに、主人公格のお加重と、故あって屈託を抱えた勤番侍のドラマが絡むのがなかなか良かったと思います。(勝負の決め手となるのが――というのも上手い)
と言いつつ、ラストのまたあまりに身もふたもない展開でまたひっくり返るのですが……
『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
冒頭で触れた通り新連載の本作は、今や歴史四コマの第一人者の作者による新たな戦国武将もの。そして題材についてはタイトルで察せられるとおり、あの暗殺・謀殺なんでもありの宇喜多直家を主人公とした作品であります。
といっても「そんな感じ」の直家が描かれるのは、彼の「今」の姿をサラリと描いた冒頭のみで、この第一回の大半を費やして描かれるのは、彼の少年時代――祖父・能家が謀殺され、彼がいきなり戦国乱世に放り出されるところまで。
この後彼がいかなる艱難辛苦を味わうことになるか、それは史実が示すとおりですが――「今」の人格形成に不可欠な部分とはいえ、その辺りの展開があまり長く続くと、直家のイメージが変わってしまうのでは!? と思わず余計な心配をしてしまうほど、真っ当でハードな戦国ものの幕開けという印象であります。
(それこそ「ゆる殺4コマ」という謳い文句が空々しく感じられるほど……)
もちろん作者にとって、史実とギャグ、そしてそれを繋ぐ人間ドラマは自家薬籠中の物。この先の料理の仕方に期待です。
4月号の紹介は次回に続きます。
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