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2021.03.10

白鷺あおい『月蝕の夜の子守歌 大正浪漫 横濱魔女学校2』 迷子と誘拐団と、美しい結末と

 大正時代の横浜を舞台に、魔女養成学校に通う三人の少女と一人の少年の冒険を描くユニークなファンタジーの第2弾であります。月蝕の晩、三人が出会った迷子の幼女。思わぬ秘密を秘めた彼女の存在と、町を騒がす子供の連続誘拐事件が意外な形で交錯し、騒動に発展していくことになります。

 横濱女子仏語塾――一見普通の女学校に見えるこの学校の真実は、魔女の養成学校。しかも生徒の半分は人ならざる妖魅――その三年生の仲良し三人組、小春は抜け首、宮子は女郎蜘蛛、透子は幽谷響なのです。
 前作で三人が巻き込まれた、横浜に出没した人語を喋る豹と、描かれた動物たちが蠢くという密林の絵にまつわる騒動――その時に出会った車椅子の少年、実はオンブレ・ティグレ(豹憑き)の若槻千秋は、それが縁で仏語塾の聴講生となり、今はすっかりと学校にも馴染んだ状態であります。

 さてそんなある日、月蝕のある晩に透子が町で出会ったのは、迷子の異国の幼い少女・アナ。やむなく仏語塾の寮で一晩預かることになったアナですが、その晩、彼女は寮から消えてしまったのです――首から上だけが!
 そう、彼女も抜け首――耳のあったところに鳥の翼を生やした異国の抜け首だったのです。

 月蝕を背景にアナと首だけで鬼ごっこを演じる羽目になった小春は、とある洋館で、不思議な鳥がアナの首を抱いて子守歌を歌うという不思議な光景を目撃することになります。その直後に駆けつけたティグレ状態の千秋とともにアナを連れ帰る小春ですが、あの鳥は何者だったのか、謎は残るのでした。

 そしてそれと時をほぼ同じくして、若槻邸に飾られ、前作で奇怪な冒険の舞台となったあの密林の絵からイグアナが抜け出すという事件が発生。さらに千秋がいま町を騒がす分限者の子ばかりを狙う誘拐団・横濱天狗団に攫われてしまうのでした。
 もちろん千秋はティグレに変身してその場は逃れたものの、その後も南米から叔父のホセがやってきたり、夢の中に姑獲鳥を思わせる女性が現れたりと、にわかに彼の周囲は騒々しいことになります。

 はたして姑獲鳥は何者なのか。横濱天狗団の正体とは。さらにホセが語るあの絵の由来や、アナにつきまとう烏天狗の少年、ドイツ屋敷で見つかった白骨死体など、様々な要素が幾重にも絡まり合い……


 というわけで、あらすじだけでもなかなか入り組んだ――すなわち起伏に富んだユニーク極まりない物語である本作。

 前作もユニーク度合いでは負けていませんが、前作は中盤での大胆な舞台転換で物語に動きをつけていたのに対し、本作は一環して魔女学校を中心とした横浜を舞台としつつ、多種多様な要素を投入することによって物語を動かしているのが、個人的にはより好もしく感じられました。
 物語構成的には、小春と千秋の一人称パートが交互に描かれる形となっていて、その分魔女学校側の印象が薄くなってしまった感は否めないのですが――後述するクライマックスを考えれば、これは些細なことと言ってもよいように思えます。

 何よりも、本当にこれだけ様々な要素が本当に全て繋がるのか、と思ってしまうほど一見バラバラな要素が、物語が進むにつれて嵌まるべきところにピタリと収まり、巨大で、美しくそして切ない絵を描き出す様は、むしろ痛快にすら感じられます。
 そしてそれを飾るクライマックスでの、魔女学校の人々のある行動が――と、これはぜひ実際の作品をご覧いただきたいのですが、あまりに美しいその光景には、ただただ胸打たれたというほかありません。
(冷静に考えれば相当に意表を突いた展開も含まれているのが気にならないほどに……)

 そしてその先の場面でももう一段、グッと涙腺に来る展開が待ち受けているのですが――そこからさらに次巻のヒキを用意しているときては、ただ心憎いとしか言いようがありません。


 そんなわけでいよいよ盛り上がる『大正浪漫 横濱魔女学校』シリーズ――完結編である第3巻『セーラー衿に瑠璃紺の風』も既に発売済み(というより私が本作を読むのがだいぶ遅くなってしまったのですが)で、これはすぐにでも読まねばと考えているところであります。

『月蝕の夜の子守歌 大正浪漫 横濱魔女学校2』(白鷺あおい 創元推理文庫) Amazon


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