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2021.03.05

菅野文『誠のくに』 斎藤一が最後に見つけた「その場所」

 おそらく近藤・土方・沖田に次いでフィクションの題材となりやすい新選組隊士といえば斎藤一ではないでしょうか。本作はその斎藤の戦いの人生を、『北走新選組』『凍鉄の花』の菅野文が描いた歴史漫画であります。

 少年時代、会津藩江戸屋敷の道場で剣を学んだ山口一。常に寡黙に、己の生きる場所を探してきた彼は、しかし些細な争いがきっかけで旗本を斬り、京に逃げることになります。
 そこで壬生浪士組に参加することとなった彼は、土方から斎藤の姓を与えられ(斎藤は清河八郎の旧姓から取ったという設定が面白い)、土方の懐刀として時に粛清を、時に伊東一派への潜入等の裏仕事を担うのでした。

 しかし鳥羽伏見の戦で幕府軍は大敗。新選組も甲府へ、そして会津へ転戦を重ねることになります。しかし会津の敗色も濃くなる中、斎藤は近藤の遺志を継ぎ、そしてかねてよりその士魂に共感を抱いていた会津を死に場所と心に決めるのでした。
 北へと戦いを続けるという土方とも決別し、会津藩とともに戦い続ける斎藤が辿り着いた先は……


 冒頭に述べたように、新選組のトップ3に次いでフィクションで扱われる(主役になる)回数が多いと思われる斎藤。それは彼の剣の強さもさることながら、その謎めいた前半生と、新選組で果たした(とされる)役割、そして会津戦争を経て明治まで生き抜いたという史実が大きいと感じられます。
 本作はそんな彼の少年時代から西南戦争従軍に至るまでの半生を、全一巻で描いた物語であります。

 特徴的なのは、全五話のうち第一話で少年時代から新選組誕生まで、第二話の前半で御陵衛士への参加、後半で鳥羽伏見から甲府へ、第三話・第四話で会津藩の敗北まで、そして第五話で斗南以降の姿が描かれる――という形で、京でのエピソードが相当圧縮されていることでしょう。
 冷静に考えれば京での斎藤はあまり表に出る仕事が少なかったわけで、納得と言えば納得かもしれませんが――その分力が入れられているのが、会津戦争なのであります。

 本作では少年時代から会津の人間と――佐川官兵衛や中野竹子と――縁があり、会津士魂に惹かれていたという設定の斎藤。
 冷静に考えてみると、史実でも土方をはじめとする新選組のメンバーが北に(それこそ北走して)戦場を求める中で、(彼のみではないとはいえ)会津に残り、そして戦後に斗南にまで行ったというのは、不思議といえば不思議であります。

 その疑問に対して本作は、会津こそが、自分の生きる場所を、そして死ぬ場所を求め続けてきた斎藤が見つけた「その場所」――人々が信念を持ち、そのために命を賭けることも辞さない「誠のくに」であったからと語るのです。
 彼にとって会津こそは新選組――斎藤にとってはそれとイコールであった土方の傍ら――と同様に、いやそれ以上に大切な、魂のふるさとであったのです。

 しかし、会津は敗れ、そして武士たちは斗南に移住することになります。それでは、会津という藩がなくなってしまった時、斎藤の「場所」もなくなってしまったのでしょうか。確かに「死に場所」はなくなったかもしれません。しかし……


 正直なところ、新選組ものというよりも会津ものという色彩が強く、会津の人々に感情移入できるかどうかによって、作品の評価が大きく分かれるのではないかと思われる本作。

 個人的にも、やはりほかに道はなかったのかと会津籠城戦の結末には考えさせられてしまうのですが――しかしその点は、会津戦争の結末における斎藤の選択が、一つの答えとなっていると考えるべきでしょうか。
 自分の場所を求めて剣を振るい、そして幾度も名前を変え、放浪と戦いを重ねてきた斎藤。その彼が最後に見つけた場所とは――数多くの血が流され、命が失われる物語だからこそ、その答えは尊く感じられます。

 そしてこれまでいずれも「死」をもって結末を迎えてきた作者の新選組ものの中で、はじめて「生」を描いて終えた本作に、何かしらホッとしたものを覚えるのであります。


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