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2021.04.07

二階堂黎人『カーの復讐』 怪盗紳士、怪奇ミイラ男に挑む

 本格推理の旗手の一人である二階堂黎人が、あの怪盗紳士アルセーヌ・ルパンを真正面から描いた名作パスティーシュ――古代エジプトの呪いか、奇怪なミイラ男が跳梁する城館を舞台に繰り広げられる連続殺人事件に、ルパンが挑みます。

 考古学者ボーバン博士が、古代エジプトはハトシェプスト女王の遺跡から発掘し、フランスに持ち帰った秘宝の数々。その一つ・「ホルスの眼」という名のメダリオンを狙い動き出したルパンですが――博士の城館・エイグル城に潜り込ませていた手下が、謎めいた暗号文を残し、何者かに殺害されてしまうのでした。
 パリ郊外の白霧の森に位置し、かつて城主が錬金術師に大量の黄金を作らせたという伝説が残るエイグル城。しかし最近は城内で、完全な密室にもかかわらず、謎の砂とともに脅迫状が残される事件が相次ぎ、そして不気味な包帯姿の男が跳梁、博士の次女・クララが襲われたというではありませんか。

 さらに古代エジプト展の公開記念パーティーに、古代エジプトの生霊「カー」の復讐を口にする謎のエジプト人が現れ、クララを人質にとるという事件が発生。新聞編集長に化けてその場に居合わせたルパンの活躍により事なきを得たことから、ルパンは博士に招待され、エイグル城を訪れることになります。
 しかしその晩、完全な密室の中で博士の長女とその婿が殺害され、クララも何者かに襲撃を受けることになります。姿なき殺人鬼の後を追うルパンは、城に隠された地下道を発見するのですが……


 ライバルと見られることの多いあの名探偵に比べると、(我が国では)パスティーシュは少ない印象のある怪盗紳士ルパン。しかしもちろん優れた作品は存在します。
 それの一つが本作――「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」という素晴らしいコンセプトで、講談社が2003年から2016年にかけて発行していたシリーズ「ミステリランド」の一冊として刊行された作品です。

 フランスの古本屋で見つかった原書を翻訳したという、いかにもな趣向の本作は、タイトルにあるとおり、エジプト神話に登場する「カー」――人間の体から抜け出した生霊の復讐としか思えない怪事件に、ルパン(盗んだ財宝を奇巌城に飾るという言葉があるので、その時期のエピソードなのでしょう)が挑むことになります。
 ちなみに作者のジョン・ディクスン・カーへの傾倒は本格ミステリファンであればよく知られた話で、そのため本作の「カー」も、そちらのカーだとばかり思った人が多かった――というのはこれは余談。

 それはさておき、古城と怪人、暗号と不可能殺人というのは、いかにも作者らしいと同時にルパンらしく、本作はまさに両者の最良の組み合わせといえるでしょう。
 どう考えてもあのミイラ男としか思えない怪人の跳梁に加え、ルパンですら一度はシャッポを脱いだ完全な密室、古の奇怪な伝説の残る城館と隠された地下道――と、実にケレン味溢れる要素で構成された物語は、まさに、かつて読んだルパンものの面白さを甦らせてくれます。
(ルパンが紳士的なばかりでなく、かなり傲慢でお行儀が悪い、人間くさいキャラクターであるのも、また嬉しいところであります)

 それでいて、本格ミステリとしての完成度が高いのも、本作の魅力であります。特に物語の中心となる、密室に忽然と現れた脅迫状、そして密室で行われた連続殺人のトリックには、感心させられること請け合いであります。一見、怪奇ムードを高める演出のように見えたものが、実は、という小技の効かせ方も心憎いばかりなのです。

 その一方で、真犯人が誰か、そしてその犯行動機な何かという点は、ミステリ慣れしている方であればすぐわかってしまうように思えますが――しかし何よりもかなり血生臭く残酷な真相は、実にルパン的と感じられますし、なるほど、ある意味確かに「カー」の復讐であった、と感じられる内容は、これはこれで悪くないといえるでしょう。

 私が読んだのはミステリーランド版ですが、表紙・口絵・挿絵がミステリマニアで知られる喜国雅彦なのも嬉しく、最初から最後まで、作品世界に浸って、楽しく読むことができた作品であります。


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