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2021.04.03

松浦だるま『太陽と月の鋼』第2巻 敵と味方と本人の想いと

 いかなる故か、近づいた金属が全て曲がってしまうという奇怪な力を持つ武士・竜土鋼之助を主人公にした、謎めいた物語の続巻であります。自分を慕う謎の美女・月と出会い、ようやく彼女と想いを交わしながらも、謎の敵によって引き裂かれた鋼之助。はたして彼の運命の向かう先は……

 生まれつき周囲の全ての金属がねじ曲がってしまうという奇怪な力を持ち、帯刀はおろか、髭や月代を剃ることも覚束ない鋼之助。そんな彼のもとに、ある日突然、謎の美女・月が嫁入りしてくることになります。
 あまりに自分を慕う押しかけ女房の存在に反感しつつも、やがて彼女を受け容れ、愛し合うようになる鋼之助。しかし京からやって来たという奇怪な陰陽師によって、月は彼から引き離されてしまうことに……


 と、はたして如何なる物語なのか、第1巻の時点ではほとんど全く見えてこなかった本作。しかしこの第2巻では、鋼之助から月を奪った「敵」の正体の一端が、そして鋼之助を助ける者の登場と鋼之助の決意が描かれることにより、だいぶ物語の構造がはっきりしてきたように感じられます。

 奇怪な敵の術により、一時は月に関する記憶を奪われながらも、奇跡的に彼女の記憶を取り戻した鋼之助。既に自分にとってかけがえのない存在となっている月を探し出そうとする鋼之助ですが――しかし相手が何者で、そして何処に消えたのかを知る術もない彼は、ただ途方に暮れるしかないのでした。

 と、そこで一旦視点は変わり、描かれるのは、生き別れの母を探す旅の途中に江戸に出てきた盲目の巫女(イチコ)・明の物語であります。
 口寄の力はない代わりに、相手の手を握ることで人の未来を視るという力を持っている明。しかし未来を視ることはできても、それを変える力を持たず、それでも相手に寄り添おうというけなげな心を持つ明ですが――彼女は、鋼之助と意外な因縁を持っていたのであります。

 実は、かつて竜土の奥方に命を救われたという過去を持っていた明の母。竜土家の所在を知って訪ねた明は、そこで鋼之助と出会い、偶然彼の手を握ったことで、その未来を見てしまうのですが……


 自らも謎めいた異能を持ちつつも、むしろそれがマイナスとしかなっていない鋼之助。もちろん月を探すのにもその力は全く役立たないのですが――相手に直接触れなくとも、その一部であったものに触れれば、ある程度の未来を視ることもできる明の力は、まさに小さな光明と言えるでしょう。

 明もまた、母との因縁(読み返してみて、なるほど! と感心)だけでなく、自分が鋼之助の未来を見たこと、そして奇矯なようでいて心に大きな情を抱え込んだ彼を放っておけず、その力で鋼之助を助けることを決意するのでした。
 しかしその動きは、敵方にすぐに察知されることになります。そしてその命により、江戸のある人々が、刺客として動き出すことになるのであります。その刺客とは……

 かくて、攫われた月と、彼女を追う鋼之助と――物語は、周囲の人々を巻き込んで、大きく動き出すことになります。
 もちろん、まだまだ物語は謎だらけ、というより謎だけで構築されていることはこれまで通りではありますが、鋼之助が目的を持って動き出し、またそれに対する「敵」が明示されたことで、一つの方向性が示されたといえるでしょう。

 そして「敵」が月に語る、彼女の存在を必要とする理由(ただしどこまで本当かはわからない)や、鋼之助に襲いかかる刺客の「正体」など、時代もの、伝奇ものとしても実に面白い要素が描かれている本作。
 何よりも、物語の全てが明らかになった時に、素晴らしい驚きが待っているような気がして――この先の物語も、楽しみにできそうであります。


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