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2021.04.02

石川優吾『BABEL』第8巻 驚くべきクロスオーバー 時をさまよう二人!

 奇想天外という点では原典を遙かに超え、果たしてどこに向かうのか全くわからなくなってきた本作。諏訪を舞台に、魔王信長が放つ死者の群れに挑む信乃たちですが、その前に現れたのは――思いもよらぬクロスオーバーが展開されることになります。

 薩摩で島津貴久こと悪魔アモンを倒した三人の犬士。しかし新たなる悪魔の化身・織田信長は、その恐るべき魔の力を用いて、桶狭間の戦で圧勝を収めていたのでした。
 これに対抗する手段を求める伏姫と比叡山の僧たちが見出した、「千里眼」の存在。彼を迎えるため、信乃と左母二郎、浜路は、一路諏訪に向かうのですが……

 というわけで、舞台は諏訪に移るのですが、諏訪大社を訪れた信乃たちが見たのは、無人となった社と、異常な姿の死体のみ。途方に暮れる彼らの前に現れたのは――動く死体の群れだったのであります。
 首を斬っても死なない生ける死者たちに苦戦する信乃たち。この絶体絶命の窮地に現れ、的確な射撃で死者たちを打ち倒していったのは、信乃が探していた「千里眼」その人・孫兵衛――しかしその姿は年端も行かぬ子供であり、そしてその服装や手にした武器は、明らかに「現代」のそれなのです。

 そしてもう一人、孫兵衛と行動を共にする完全武装の男・対馬もまた、やはり現代人としか思えぬ存在で……


 八犬士が戦う相手が海を越えてきた西洋の悪魔という設定に慣れてきたところに、新たにもたらされた爆弾。表紙のとてつもなく精緻でおぞましい浪裏のインパクトも吹き飛ぶそれは、対信長の切り札となると目される二人が、現代人であったこと――というだけではありません。
 何故ならばこの孫兵衛と対馬の二人こそは、本作から見れば前々作として「ビッグコミックスペリオール」誌に連載されていた作者の作品『スプライト』の登場人物なのですから!

 謎の「黒い水」に飲み込まれ、様々な時代をさまようこととなった人々の姿を描いたSFアクションスリラー『スプライト』。その中でも、時代を越えて老いぬまま生き続けるロストチルドレンの一人である孫兵衛、ある理由で長きに渡り戦闘訓練を受けてきた武闘派ヤクザである対馬は、物語のメインキャラクターとして活躍してきました。
 この二人は、同作の戦国時代を舞台としたエピソードの中で、武田・真田・織田の三つ巴の戦に巻き込まれ、そして織田信長を討つために戦国時代に残ることを決意して、物語から退場したのですが――信長!?

 なるほど、信長を敵とする物語において、その信長を討つためにこの二人が登場するのは平仄が合っている――と言ってよいかはわかりませんが、しかしさすがにこのクロスオーバーを想像していた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。
 もっともこの二人が信長と戦ったのはもう少し後の時代のはずで、その辺りからすると、同作の彼らではなく、彼らをモチーフとしたキャラクターなのかな、とも感じますしたが――作者自身がTwitterで「『スプライト』の続編」と語っているので確定なのでしょう。
(しかしゲスト出演かと思えば、伏姫がなにやら大変なことを……)


 何はともあれ、生ける死者の群れという想像を絶する敵と戦うこととなった信乃たちにとって、火力という点ではまさに破格の対馬と孫兵衛の存在は、願ってもない味方であるはずですが――しかし二人の側にとっては、敵が共通であるだけで、目的が同じというわけではありません。
 それどころか、彼ら(というか対馬)にとっても、伏姫の霊威を以て悪魔たちと戦う信乃たちの存在もまた、異質過ぎるものであるようなのですが……

 しかし如何に相手の存在が不可解であったとしても、無数の死人に包囲され、諏訪から脱出もままならない状況にあっては、互いに手を携えるしかありません。かくて諏訪大社本宮を舞台に籠城戦を演じることになった五人ですが、しかし状況に好転の兆しはありません。
 それどころか、明確に信長も信乃たちを敵と認識した状況で、はたして彼らはこの窮地を脱することができるのか。そして孫兵衛と対馬の旅に終わりは来るのか――これまで以上に予測もつかない物語が続きます。


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