« 響ワタル『琉球のユウナ』第6巻 衝撃のルーツ! 引き裂かれたふたり | トップページ | 『セスタス The Roman Fighter』 第1話「拳奴セスタス」 »

2021.04.15

皆川亮二『海王ダンテ』第12巻 力が欲しいか? 海王悪夢の目覚め!

 ダンテ=若き日のネルソン提督の冒険を描いてきた『海王ダンテ』もいよいよ最終章に突入であります。自分の誕生の秘密と、その身に秘められた力の存在を知りつつも、それを拒否し、人間として生きようとするダンテ。しかし悪意に満ちた運命が、彼を恐るべき存在に変えるべく動き出すことに……

 天空に浮かぶ超科学都市アトランティスで、自分が地球意志の代行者にして裁定者ともいうべきドゥランテ――魔人モーセ復活のための器であり、既にモーセの魂が自分の中で目覚めていたことを知ったダンテ。
 しかしその人間としての強きそして善き心でモーセを抑えた彼は、かつての惨劇を繰り返すことなく、アトランティスと友好関係を結び、帰還したのでした。

 そして人間として、イギリス海軍の軍人としての道を歩み始めたダンテ。ついにレイゾナブル号の艦長として船を任せられることになった彼の初任務は、東インド会社からの依頼で、インドから清に厳重に密封された品物を運ぶというものだったのですが――これはどう考えてもマズい予感しかしません。
 どう考えてもその中身はアレしか考えられないというこちらの予想は的中し、ダンテは愛すべき祖国の、文明国にあるまじき恥ずべき行為の存在を知ってしまうことになるのでした。

 そしてついに自分の前に姿を現した育ての親、実は不死人のコロンバスから、人間たちへの復讐のためにモーセ復活に手を貸し、数え切れない無残な所業の果てに自分を生み出したと聞かされるダンテ。
 その言葉にも耳を貸すことなく、人間としての道を歩まんとするダンテですが、その決意を無にするような人の悪意が、最悪の結果を招くことに……


 ついに核爆発すら抑え込むほどの力を得て、地上最強ともいうべき存在となったダンテ。その力は、もはやナポリオが事実上のお手上げ宣言をするほどのものですが――しかしその力がかつてのモーセのように人間の文明を崩壊させていないのは、ひとえにダンテが人間としての心を持ち続けているからにほかなりません。

 これまで、様々な苦境に陥り、そして様々な人間の蛮行を目にしながらも、決して自分に、人間に絶望することなく、自分の成すべきことを果たしてきたダンテですが――しかし彼が、心を捨て、力のみを求めることがあったとしたら? この最終章では、その問いかけが描かれることとなります。

 正直なところ、この巻での展開は、いささか性急な印象も否めません。しかしあのダンテの心に人間不信を芽吹かせるのが、今なお世界史上で「あれはない」と言われ続けるあのイギリスの行為というのは、それなりに説得力があるといえるでしょう。
 思えばこれまで、ナポリオがその一角を担うフランスの蛮行は幾度も描かれてきたものの、イギリスはほぼ一貫して「善い国」「文明国」として描かれてきた印象のある本作。それはいささか一面的に感じられるものでしたが――それがこのような形でひっくり返されるとは。

 そしてもちろん、ダンテを苦しめるのはそれだけではなく、あまりにショッキングな展開がこの巻のラストでは待っているわけですが……


 ついに「力が欲しいか?」という問いに対し、肯ってしまったダンテ。しかし本作における力は、決してダンテを救うものではありません。それどころかダンテを、いや全てを滅ぼす力であります。
 その力の前に、果たして人類の命運は、そしてダンテの未来は――現時点ではどうにもすっきりしない展開が続きますが、おそらく最終巻であろう次巻において、皆川作品らしい人間の強さと希望を見せていただきたいものです。


『海王ダンテ』第12巻(皆川亮二&泉福朗 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon

関連記事
 皆川亮二『海王ダンテ』第1巻 二人の少年が織りなす海洋伝奇活劇
 皆川亮二『海王ダンテ』第2巻 いよいよ始まる異境の大冒険
 皆川亮二『海王ダンテ』第3巻 植民地の過酷な現実と、人々の融和の姿と
 皆川亮二『海王ダンテ』第4巻 新章突入、新大陸で始まる三つ巴の戦い
 皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い
 皆川亮二『海王ダンテ』第6巻 オーストラリア編完結 動物軍団大暴走!
 皆川亮二『海王ダンテ』第7巻 大乱戦、エジプト地底の超科学都市!
 皆川亮二『海王ダンテ』第8巻 秘宝争奪戦! 四つ巴のキャラが見せる存在感
 皆川亮二『海王ダンテ』第9巻 驚異の乱入者!? エジプト編完結!
 皆川亮二『海王ダンテ』第10巻 アトランティス編開幕 ダンテのルーツ、モーセの過去
 皆川亮二『海王ダンテ』第11巻 内なる敵との対峙 そして「人間」の条件

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 響ワタル『琉球のユウナ』第6巻 衝撃のルーツ! 引き裂かれたふたり | トップページ | 『セスタス The Roman Fighter』 第1話「拳奴セスタス」 »