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2021.04.30

恵広史『カンギバンカ』第2巻 オリジナル展開!? 本山寺編

 昨年を代表する歴史・時代小説の一つである今村翔吾の『じんかん』の漫画化である『カンギバンカ』の第2巻であります。戦国の世にあってようやく得たと思われた仲間と居場所を失ってしまった九兵衛たちが身を寄せた山寺。しかしそこはどうやら曰く付きの場所で……

 あの梟雄・松永久秀の若き日を描く本作、その第1巻では、両親を殺され、弟の甚助と二人で生きてきた少年・九兵衛が、多聞丸率いる子供たちばかりの野盗団と出会い、多聞丸と「奪い奪われることのない場所(くに)をつくる」という夢を共有する姿が描かれました。
 しかしその矢先、情報が事前に漏れ、襲撃した相手に返り討ちに遭ってほとんどのメンバーが命を落とすことになった野盗団。そして多聞丸もまた……

 と、読者の誰もが驚いたであろう多聞丸の死を受けて始まるこの第2巻。辛うじて逃げ延びたのは九兵衛と甚助、梟と紅一点の日夏の四人――いや、多聞丸たちを売った張本人であり、九兵衛に斬られた梟を除く三人のみであります。
 心身ともに深く傷ついた三人がたどり着いたのは、京近くの山寺・本山寺。そこで孤児たちを育てる宗慶和尚に迎えられた三人は、二ヶ月を過ごすのですが――しかし九兵衛の心には一つの疑いが芽生えることになります。自分たちを含めた孤児たちを食べさせ、時に高価な筆や紙までも与えてくれる宗慶和尚。そこには何かの裏があるのではないか――と。

 思えば九兵衛と甚助は、多聞丸たちと出会う直前までは、やはり孤児たちを育てながらその裏で食い物にし、人買いに売り飛ばしていた寺に居りました。そこまで極端でなくとも、この弱肉強食の戦国時代、善意だけで孤児を育てる者が、育てられる者がどれだけいるものかどうか?
 はたして怪しげな動きを見せる宗慶和尚の後をつけ、寺の思わぬ秘密を知る九兵衛。しかしそこから事態は思わぬ方向に転がることに……


 と、第1巻の時点で、物語の流れはほぼ原作通りながら、随所にアレンジがほどこされていた本作。この第2巻ではさらに原作から飛躍した物語が描かれることになります。

 この巻の後半で描かれるのは「敵」の手の者に傷を負わされた宗慶和尚の命を救うために奔走する九兵衛と甚助の姿。
 京に名医がいると聞いた二人は、応仁の乱以来廃墟のようになった京を訪れ、医聖・田代の弟子を名乗る風変わりな青年・曲直瀬一渓を本山寺まで連れていくことになるのですが――その後も次々と彼らの前に障害が立ちふさがることとなります。

 実はこの辺りの展開は全て本作のオリジナル、原作では本山寺のシーンはかなり短く、すぐ次の舞台に移った印象がありますが、ここまで引っ張るとは少々、いやかなり驚かされました。
 正直なところ、ここまでトラブル続きにしなくとも、という印象はありますし、その一方で原作のタイトルである「じんかん」という語が語られるエピソードが省略されたのも気になるのですが――原作での「静」の場面がほとんどであった本山寺のくだりを、漫画として「動」にアレンジするのは、わからないでもありません。

 そしてこのアレンジ展開の中で、多聞丸の想いを背負いつつも、彼との絆となるある品物を、他者の命を救うために躊躇いもなく差し出すことができる九兵衛の姿を描くのは、これはこれで大いに納得できるところであります。
 また、原作ではかなり後に登場し、しかもほぼチョイ役だった曲直瀬(いうまでもなくあの有名人の前身であります)をここまでフィーチャーしているのはなかなか面白く、原作では九兵衛視点でさらりと描かれていた日夏との別れに彼の視点からしっかりとツッコミが入っていたのも、何とも愉快です。


 さて、すぐ上で触れたように、この巻のラストでは、本山寺に残る日夏と別れ、堺に旅立つ九兵衛と甚助の姿が描かれることとなります。
 九兵衛の、そして多聞丸たちの夢を叶える力になるかもしれない阿波の御方との繋ぎとなるある男と出会うため、堺を訪れた二人を待つものは――次巻も一波乱も二波乱もありそうです。


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