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2021.04.04

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 序章』 確かに知っている、初めて目にする八犬伝

 「八犬伝」という物語の面白さの一つは、はるか昔に完結している、既に完成された物語である一方で、現在進行形で新たなバリエーションが生み出されていることではないでしょうか。その一つ、朝日小学生新聞で連載中のオールカラー漫画の序章部分が、このたびKindle化されたのでご紹介します。

 はるか昔の日本、大塚村――そこに両親と暮らす犬塚信乃は、血気盛んな性格ながら、母の言いつけで女物の着物を着せられている少年。
 そんな自分の境遇に不満を抱く信乃は、ある日、父の秘蔵の刀を持ち出して村長・蟇六の屋敷を襲撃した山犬たちの群れと戦い、左腕に傷を負いながらも蟇六の娘・浜路を助けることになります。

 それがきっかけで、蟇六の召使でクールな少年・荘助と親しくなり、共に武術の稽古をするようになった信乃。父からも刀――村雨を託され、そして普通の格好をするようになった彼は、荘助とともに、蟇六が率いる山犬のすみかの討伐隊に加わることになります。
 そこで、山犬に襲われていた一人の美女を見つけた信乃たちですが……


 そんな本作は、50ページ弱の、長めの短編といった分量の作品。このあらすじでわかるように、内容的には信乃の子供時代を描いているのですが――面白いのは、「八犬伝」がリライトされる際には過去の物語として流されがちなこの部分を、原典の印象的な要素は押さえつつ、オリジナルの要素を交えて再構成していることであります。

 これによって本作は、「八犬伝」をよく知る読者にとっては、確かに知っているけれども、それでいて初めて目にする物語として成立しているといえるでしょう。(正直なところ、手束が普通に信乃の母親をしている物語は、初めて見たように思います)
 もちろん、八犬伝を知らない、本作で初めて触れる読者――本作の本来の想定読者層である子供たちにとっても、コミカルな味付け濃いめで描かれた本作は、ユニークなファンタジーとして楽しめるのではないでしょうか。

 もちろん、そのテイストや絵柄、あるいはファンタジーとして大きく原典をアレンジした部分について、真面目な向きは違和感を感じられるかもしれません。
 しかし、冒頭に述べたようで、完成されているようで、無数の変化を遂げてきた、そして変化を続けているのが「八犬伝」という物語であります。

 本作はその最新の一つとして楽しめる――何よりも原典の骨格をしっかりと把握した上で描かれているのがわかる――物語であると、私は感じました。
(もっとも、「八犬伝」に関してはかなり甘々な私の感覚ではありますが……)


 連載の方は不定期ながら既に5章――朝日小学生新聞のサイト等を見たところでは、五人の犬士が集結した辺りの様子――まで進んでおり、今後も順次、電子書籍化されるとのこと。
 「八犬伝」好きとしては、この先の展開も大いに楽しみなところなのです。


『異界譚里見八犬伝 序章』(うちはら香乃 Kindle版) Amazon

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