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2021.04.18

「コミック乱ツインズ」2021年5月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」5月号の紹介の後編であります。

『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 島村盛実に祖父・能家を殺されて城を奪われ、連載第2回にして全てを失ってしまったところからスタートという、テンションの高いタイトルとは裏腹に、重野作品の主人公でも屈指のどん底っぷりの直家。
 今回は両親とともに備後国・鞆に流れ、直家というより宇喜多一家(除く親父)の苦心惨憺の日々が描かれることになりますが、その中でもチラリと直家の「殺っちゃえ!!」な顔を入れてくるのが、らしいといえばらしいといえるかもしれません。(にしても父親の興家、「宇喜多興家(暗愚)」と名前の後にキャプションされるキャラ初めてみました)

 ラストには阿部善定が登場、キャラデザイン的には見るからにうさんくさい冷酷キャラっぽく見えますが――宇喜多一家の今後に多大な影響を与えるこのキャラが、本作ではいかに描かれるのか、気になるところです。


『カムヤライド』(久正人)
 前回はモンコのところを離れて、彼の周囲の各キャラクターの状況が描かれましたが、今回はモンコのところを離れつつも、描かれるのはモンコ自身の物語というユニークな構成。以前もチラリと登場し、その魚めいた顔つきが妙に印象に残った大王の側近らしい男・タケゥチが、死んだはずのモンコ――いや、ノミの宿禰の跡を追って、各地を巡る姿が描かれることになります。

 宿禰の処刑前にその指を斬った剣士(タジマモリの非時香菓探索に同行していたという、何気に一エピソード作れそうな設定にシビれます)、宿禰を処刑した処刑場と、そこから何かを持ち出したらしい謎の三人組と出会った水木チックなタッチの盗賊団、そして「モンコ」とノツチ師匠が出会った伊那山中のあの村――ここで描かれるのは、恐るべき力を持つ謎の鎧を生み出した末に宿禰が処刑されてから、モンコとして、カムヤライドとして再誕するまでの足取りを追う旅であります。

 カムヤライド誕生秘話が鮮烈過ぎる形で描かれたために、すっかり謎は解けたような気分になっていましたが、しかし冷静に考えてみればこの部分は、物語の大きなミッシング・リンクというべき部分としていまだに残されています。それを一話じっくり使って再確認させられたわけですが――それにしても印象に残るのは、それがほとんどホラータッチで描かれることです。
 宿禰に直接関わった人々が、まるで見てはならない、触れてはならない存在と出会ったかのように狂気に陥っている様を見れば、宿禰=モンコの、カムヤライドの存在には、まだまだ暗い闇が隠されていることが痛いほど感じられます。

 にしてもタケゥチ、このような仕事をただ一人で任されていることから察せられるように、その死んだ魚のような目とは裏腹の恐るべき力の持ち主。そのタケゥチがついにモンコたちに迫ることになって――まだまだ波乱が待ち受けていそうであります。


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安影法師」編も今回で完結、梅安を巡る一つの因縁が、ここに決着を迎えます。
 白子屋残党が送り込む刺客たちを返り討ちにし、江戸の白子屋の拠点を預かっていた伊八をも討った梅安たち。残るは、清助の仕掛けを依頼した奥右筆・駒井助右衛門退治ですが――それを危なげなく終わらせた梅安に、かつて撃退した鵜ノ森の伊三蔵が異常な執念でもって迫ることになります。

 白子屋との抗争の後始末であり、そして降りかかる火の粉を払うためとはいえ、今回はほとんど仕掛人の仕事抜きで戦うこととなった梅安と彦さん。ある意味私情でその技を振るう姿には、ある種の危うさが漂うように感じられますが――それは伊三蔵も同様といえるかもしれません。
 かつて白子屋から依頼された梅安殺しをしくじり、それでも命永らえた伊三蔵。白子屋亡き後、その依頼はキャンセルになったといえるはずですが――しかし己の姿を無残なまでに変えても梅安を付け狙う姿からは、仕掛人の矜持以上のものが感じられます。(しかしそんな彼にも、打算抜きで献身的に支えてくれる存在がいるという描写がまた……)

 そしてその二人の運命が再び交錯した時、生き残るのがどちらであるか――それは言うまでもありませんが、サブタイトルの意味が明かされる結末の索漠とした味わいは、何とも印象に残ります。

 そして次回からは、最終章と銘打って「梅安冬時雨」がスタート。原作者の病没により未完に終わった物語を完結させてみせるとのことですが、果たしていかなる結末が待つのか――期待したいと思います。


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