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2021.05.31

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 3章 伏姫の過去』 伏姫の想い、ヽ大の想い

 朝日小学生新聞で不定期連載中、そして現在Amazonで電子書籍刊行中の児童向けフルカラー漫画版八犬伝の第3章であります。全40ページで描かれるこの章は、サブタイトルのとおり、ついに過去に伏姫の身に起きた事が語られることになります。そしてそれが現在の信乃たちに与える影響とは……

 古河公方に献上しようとした村雨がいつの間にか偽物にすりかえられていたため、あらぬ疑いをかけられ、追っ手の犬飼現八と芳流閣で対決することとなった信乃。激闘の末、現八ともども川に飛び込むことで当座の難を逃れた信乃は、そこに現れた小文吾、そしてヽ大法師(ともう一人)に助けられ……

 という前章を受けて描かれるこの第3章。二人は小文吾の実家の宿屋に匿われることになって――と、原典でいえば行徳古那屋のくだりに当たる部分ですが、本作でメインとなるのは、丶大法師が語る伏姫の過去の物語であります。

 今を去ること二十年ほど前、執拗に里見家を狙う玉梓から身を守るために男装し、八徳の文字が浮かんだ玉のついた数珠を身につけて日々を送っていた伏姫。
 しかし彼女は里見家を襲う巨大な化け犬と単身対峙し、相手を教化したものの自らは力尽き、八つの玉を残して、神々の元に召されたというのであります。

 そして伏姫と想い合いながらも、彼女が召される場に居合わせることしかできなかった金碗大輔は、出家してヽ大と名乗り、里見家に生まれるはずだった子供たち――伏姫と自分の間の子供たちの生まれ変わりである犬士たちを求めて旅を続けて……


 この丶大法師の語る内容は、言うまでもなく、「南総里見八犬伝」という物語のプロローグに当たる伏姫伝奇のリライトであります。
 本作は信乃の物語から始まったために、冒頭からは省略されたこの過去の因縁ですが――原典でも信乃たちが自分たち自身の宿命を知るこの場面において、読者にもそれが明かされるというのは、違和感のないアレンジといえるでしょう。

 そしてその内容は、さすがに原典の(精神的・霊的なものであるとはいえ)人獣婚の部分はオミットされているのですが――その代わりと言うべきか、伏姫と大輔の間の想いを描いているのが印象に残ります。
 特に、原典ではひたすら神女的・仙女的側面の強い伏姫が、最期に自分自身の想いを吐露する場面もいいのですが――個人的に強く印象に残ったのは大輔=ヽ大の存在です。
 彼が何を想って犬士たちを探し求めているのか――決して作中で明示されているわけではないのですが、この辺りの感覚は、大人の方がグッとくるのではないでしょうか。

 そしてもう一つ目を引くのは、犬士たち自身にも玉梓の畜生道の呪いがかけられているという点ですが――この辺りは、まだ語られていない小文吾の過去に繋がっていくことになるのでしょう。

 一方、大塚村に戻る途中の荘助は、何者かに斬られたある人物の骸(出番ここで終わりか……)を発見、不吉な予感に帰還を急ぎ――という場面で終わるこの第3章。シリアスな場面が多かったこの章以上に、次の章は嵐の予感であります。


 といいつつ本作、随所に挿入されているコミカルなシーンもまた楽しく、特にヽ大の蜑崎照文への容赦ないツッコミと、終盤に描かれる浜路の○○には爆笑させていただきました。
 シリアスとギャグと――この辺りの緩急のつけ具合もまた、本作の欠かせない魅力であることは間違いありません。


『異界譚里見八犬伝 3章 伏姫の過去』(うちはら香乃 Kindle版) Amazon

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