輪渡颯介『呪い禍 古道具屋 皆塵堂』 帰ってきた皆塵堂、帰ってきたコワ面白い物語!?
あの古道具屋が帰ってきました。恐ろしい曰く因縁のあるものばかりが集まる――しかし店主をはじめ、どこかのんきでおかしな連中揃いの古道具屋・皆塵堂を舞台としたコワ面白い物語の第8弾が、三年ぶりに登場であります。妙に不運続きの末に、皆塵堂にたどり着いた元料理人の青年の運命は……
深川に店を開く古道具屋・皆塵堂。店の裏の蔵に母屋がめり込んでいるような――というより母屋を建て増したて繋げたという奇妙な構造の建物の中に、所狭しと古道具が積まれ、足の踏み場もないような状態の店であります。
主人の伊平次は釣り好きで店を抜け出しては釣りばかり、小僧の峰吉は客あしらいが上手、というより客以外に対した時とはほとんど普段とは二重人格――そんな個性的すぎる連中が営む皆塵堂に毎回やってくるのは、色々あって行き場を失った訳ありの若者たちで……
そんな「古道具屋 皆塵堂」シリーズは、3年前の第7作『夢の猫』で完結――したはずでしたが、まあ細かいことは抜きにして、このたび復活したというのは、ファンとしては欣快の至りというべきでしょう。
さて、そんな久々の皆塵堂を今回訪れるのは、元料理人の麻四郎であります。
一人前の料理人になるべく修行してきたものの、店の経営が悪化してリストラされた麻四郎。居酒屋をやっている親戚を頼ろうと思ったら、その条件に振り売りをすることになり――以来数ヶ月、塩売りをして暮らしていた彼は、以前世話になった他所の料理屋の先代と町で出会い、皆塵堂を紹介されたのであります。
住み込みという条件に惹かれて皆塵堂を訪れた麻四郎は、伊平次からまずは数日働いてみるといいと言われ、さっそくその日から店に泊まり込むのですが、その晩、ただでもいいからと言われ引き取った綺麗な壺の中から……
という、シリーズファンにとっては、来た来たと思わずニンマリしてしまう導入部の本作。当然ながらこの後、麻四郎は店で、出先で、次から次へと恐ろしい幽霊に出会い、肝を潰すことになるのであります。
そんなシリーズのお約束というべき展開は健在ながら、久々の作品らしく、本作ではこれまでの歴代主人公の多くが顔を見せてくれるのも、嬉しいサービスであります。
強すぎる霊能持ちで猫嫌いの太一郎(『古道具屋皆塵堂』)。太一郎の親友で脳筋の猫バカ猫魚屋・巳之助(『迎え猫』)。怪異を絶対「見ない」(最近婿入りした)連助(『祟り婿』)。お調子者で勘当された末に皆塵堂の隣の米屋でこき使われている円九郎(『影憑き』『夢の猫』)……
残念ながら異常に不幸体質の庄三郎(『猫除け』)と、元盗人の引き込み役だった益治郎(『蔵盗み』)は台詞で言及されるのみですが、それでもこれだけの面子が入れ代わり立ち代わり顔を出してくれるのは、シリーズならではの楽しさでしょう。
特に過去実質二作品で主役を務めた円九郎は、今回もそのしょうもないキャラクターで物語を掻き回し、周囲から容赦なくツッコまれまくるというおいしい役を独り占めしている感があります。
このように、シリーズファンには安心して読める本作なのですが――その一方で、色々な意味でマイルドになった、という印象は正直なところあります。
本作の主人公である麻四郎の個性は、妙な不運続き――それが「恐ろしいほど」とか「とびっきり」ではなく「小さな」不運が続くという、これはこれで微妙に厭な状態なのですが、やはりインパクトという点では薄れます。
また、キャラのコミカルさとは対照的に、時に致死レベルという洒落にならない怪異がこれまで幾度も登場したのに比べれば、そちらも大人しい印象があります(ただし一つ、本当にものすごいインパクトのシーンがあるのですが……)
さらにオチもちょっと――と、厳しい見方ばかりになってしまいましたが、久々の再会に、ついつい細かいところが気になってしまったというところではあります。
もちろん、上で述べたようにひっくり返るような場面あり、思わず吹き出す場面ありと、本作ならではの面白さがきっちりあるのももちろんのことであります。
まだまだこの先も続くシリーズの復活編として、気楽に楽しめる作品であることは、これは間違いないところであります。
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