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2021.05.04

唐々煙『MARS RED』第2巻 人間と「人間的な」ヴァンパイアの狭間で

 4月からアニメ版も開始された大正ヴァンパイア奇譚の漫画版、第2巻であります。帝国陸軍の金剛鉄兵として選ばれた4人のヴァンパイアたちの、いつ果てるともなく続く戦いの行方は、そしてその一人・秀太郎を追う女性記者・葵の運命は……

 陸軍内部で極秘理に進められるヴァンパイアの軍事利用計画・金剛鉄兵計画。その実働部隊である零機関所属の4人のヴァンパイア――凶暴なスワ、マッドサイエンティストのタケウチ、最下層ランクの山上、そして栗栖秀太郎の任務は、都内に潜伏し無差別に人間を襲うヴァンパイアの拘束・処理であります。
 その中でもヴァンパイアになりたての秀太郎は、メンバーの中でも最強のAランクながら、いまだ自分の運命を受け容れられず、戸惑うばかりの日々を送っていたのですが……

 そんな基本設定で展開する本作の第2巻では描かれるのは、彼らヴァンパイアの奇妙な生態であり、東京を離れた地方での任務であり、そして吉原を舞台とした奇怪な事件の捜査であり――ヴァンパイアにして帝都に生きる軍人である彼らの様々な姿であります。
 冒頭の、零機関の面々が棺桶で眠る理由やタケウチの珍発明が語られるエピソード、人間でありながらしかしある意味一番人間離れした零機関の前田隊長の「実力」が描かれるエピソードなど、いずれも本作ならではの内容で面白いのですが、やはりこの巻のメインは、吉原を舞台とした物語でしょう。

 吉原で次々と見つかった遊女の変死体――遺体が紫色に変色した毒殺体の捜査のため、吉原に潜入した零機関。
 マスクがなければ血の匂いで暴走しかねないスワ(その一方で芝居好きという趣味が面白い)が、はるか昔に離別した妹を思い出させる遊女との交流を通じて過去を思い出すくだりや、吉原に潜むヴァンパイアの根城の設定など、印象的なシーンはいくつもあるのですが――しかしやはり強烈なインパクトを残すのは、秀太郎の覚醒でしょう。

 もはや人間ではなく、しかし人間の血で生きるヴァンパイアにもなりきれない。そんな迷いから、任務中に失敗し、前田やスワから厳しい言葉をぶつけられる秀太郎。それでも「化け物」になりきれない彼の迷いは、あまりにも残酷な形で打ち砕かれることになります。
 そしてその果てに彼が見せた真の力とは……

 人間を食料とする、人間ならざる化け物でありながらも、その姿同様、その心は人間と変わらないヴァンパイア。それは軍人である零機関の4人であっても変わることなく、そんな彼らの姿が(作者独特のギャグシーンにおけるセンスもあって)、殺伐とした設定ながら、どこか親しみやすさを感じさせてくれます。
 しかしどれだけ「人間的」な姿を見せようとも、ヴァンパイアはヴァンパイア――決して人間ではなく、人間に戻ることはできない。そして「人間的」であるからこそ、その事実に苦しむ――そのことを、本作は秀太郎の姿を通じて、痛切に描き出すのであります。

 そしてまた、自身は人間であり、何よりも秀太郎がヴァンパイアであることをいまだ知らないものの、彼の現実を知れば同様に苦しむであろう人物がもう一人います。それは本作のヒロインである葵――秀太郎の幼馴染であり、彼の「死」を未だに信じきれず、その姿を追う女性であります。
 残念ながらこの巻ではあまり出番がなく――それどころか敵(?)に○○を受けている状態なのですが――しかし秀太郎の覚醒を知った時、彼女がいかなる想いを抱くか、想像するだに胸が痛むのです。


 そしてこの巻の終盤において、物語は急展開を迎えることになります。
 以前からヴァンパイア血清の行方を追ってきた零機関の前に現れる、物語の背後で暗躍してきた異国の――S級のヴァンパイア。零機関の存続すら危うい状況の中、秀太郎たちの、そして葵の運命は――いよいよクライマックス突入であります。


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