賀来ゆうじ『地獄楽』第13巻 大団円 地獄と極楽の島での戦いの先に
連載完結と同時にアニメ化発表、本書と同時にファンブックも発売という破格の待遇となった『地獄楽』、堂々の最終巻であります。自らの目的のため、本土の民全てを丹に変えんとする蓮との最終決戦の行方は、そして最後に生き残る者は――ついに物語は大団円を迎えます。
死闘に次ぐ死闘の果てに神獣・盤古を倒した死罪人と山田浅ェ門たち。しかし天仙たちのリーダー・蓮を乗せた船は既に本土に向けて出航してしまったのでした。
実は元人間であり、徐福の妻であった蓮。はるか昔に亡くなった徐福を復活させるため、本土の人間全てを丹に変えんと暴走する蓮を止めるため、追加上陸組とも手を携えて画眉丸と佐切たちは後を追うことになります。
かくてこの巻の大半を費やして描かれるのは、最強最後の敵である蓮との決戦であります。天仙たちのリーダー――というより天仙たちのまさに母体であり、天仙を遥かに上回る存在・真仙である蓮。これに挑むは画眉丸と佐切だけでなく、浅ェ門最強の殊現をはじめとする、生き残った面々であります。
いかに死闘の果てに満身創痍とはいえ、人間という枠でいえば最強クラスが集まったこのメンバーですが――しかしそんな少年漫画的に燃えるシチュエーションも、真仙としての力を発揮した蓮の前にはあっけなく粉砕されるほかありません。
かくて一人、また一人――いや、一気に打倒されていく人間たち。彼らと蓮のいわば第一ラウンドの結末と言うべき第百十九話における、十数ページに渡って一切無音のまま惨劇が繰り広げられるシーンなど、あまりの救いのなさに愕然とするほかありません。
(単行本派の私には珍しく、本作はほぼ毎週連載を追っていたのですが、この回を読んだときの絶望ぶりは昨日のことのように思い出せます)
しかし、人間は――地獄と極楽の島で幾多の戦いをくぐり抜けてきた画眉丸と佐切は、それでもなお立ち上がります。
己が剣を取り、人を斬ることに悩み続けてきた果てに、ついに一つの境地にたどり着いた佐切。完全に花化し、甘美な夢に浸ってもなお戦いの中に戻る(正確には引き戻された)画眉丸。そんな二人の姿は、まさにあの島の経験があったからのものであることは間違いありません。
そして首斬り人と忍、それぞれの本分を活かしての活躍は、こう来たか! と膝を叩くほかなく――そして最後の最後の賭けの果てに画眉丸が見せた行動と、それがもたらした結末にもまた、ただただ嘆息するほかありません。
これまで物語の中で積み重ねられてきたものが、一点に収束し、美しい結末を紡ぎ出す幸福に、存分に浸ることができました。
しかし、決戦の先にも物語は続きます。天仙最後の生き残り・桂花が残した不気味な易――残るのは男二人と女一人という結果は、現実のものとなるのか?
そもそも、死罪人たちの目的であった仙薬を持ち帰ることができるのはただ一人であります。だとすれば誰がそれを持ち帰るのか、そしてそれ以外の者の運命は……
もちろんここでその結末を述べることは決していたしませんが、しかしこの物語がこのような終わりを迎えるとは、とこれまたただただ唸り、そして微笑むほかない結末であります。(ただ「○○が十日でやってくれました」な点だけは何度読んでも引っかかるところではありますが……)
そしてさらにその先まで描かれて、もうこれ以上はないフィナーレを迎えた本作。一つの物語は終わり、そして幾つもの物語が始まる――理想的というほかない結末は、まさに大団円というべきでしょう。
連載開始時は、不老不死の仙薬を巡り、死罪人たちと、彼らを監督する浅ェ門たちによる一種のデスゲーム的な物語かと思われた本作。
そこからこの結末に至るまで物語は幾重も変転を重ね、終わってみれば、そこで描かれたものは、「人間」という存在の強さと儚さ、そして愛という感情の強さと美しさであった――というのは、いささか感傷的に過ぎるでしょうか。
しかし、この物語を最初から最後まで読んで本当に良かった――その気持ちだけは間違いがないと、この最終巻を読み終えて、改めて感じた次第です。
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