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2021.05.03

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第5話「妖姫伝説」

 殤不患の使いで睦天命と天工詭匠に会い、霊薬を受け取った捲殘雲。一方、刑亥は七殺天凌にその過去を尋ねる。七殺天凌の正体こそは、かつて西幽の王宮に入り込んで皇帝を誑かし、暴虐の限りを尽くした魔族の美姫・照君臨。正体が露見して誅滅された彼女の魂は剣に宿り、魔剣に化したのだという……

 前回、散り散りとなってしまった殤不患一行。そのうち、神蝗盟サイドに潜り込むこととなった凜雪鴉は、去り際になにやら袋を殤不患に手渡しておりましたが――ほとんどシザーマンみたいな扱いの婁震戒をようやく撒いた殤不患が袋のことを思い出して開けてみれば、中に入っていたのは――ねんどろいど!? いや、見かけは凜雪鴉のねんどろいどながら、本人の声で喋る呪いの人形――じゃなかった、離れた凜雪鴉と会話することができる通信機だったのであります。まあ便利は便利と思いつつ、やっぱり見ているとムカつくので袋にしまう殤不患でありました。

 一方、前回ラストで鋳異坊にたどり着いた捲殘雲と聆牙の前には、目の周りを布で覆った睦天命が現れたわけですが――やはり彼女は失明していたものの、しかし性格の方は変わらず明るく聡明な様子で、少しだけホッとさせられます。しかし盲目の彼女は誤魔化せても、天工詭匠には、傷を負った浪巫謠のために、捲殘雲が殤不患の使いで薬を貰いに来たというのは、バレバレだったわけですが……
 霊薬を受け取って捲殘雲が退散した後、天工詭匠の口から殤不患が西幽に戻ってきていると聞かされた睦天命。彼女も聆牙の気配でそれとなく察していたようですが――自分を心配させまいと黙っていた殤不患たちの身勝手な優しさに怒ってみせるその姿は、男たちの背中についていくのではなく、そして彼らの優しさに甘えるだけでない、睦天命という女性の凛とした部分が感じられて、何とも嬉しくなります。

 さて、主人公サイドが何とか盛り返しつつある一方で、前回七殺天凌を拾った刑亥ですが――彼女は魔剣を姉上と呼ぶではありませんか。実は七殺天凌の生前の(?)姿こそは、魔族の美姫・照君臨。かつて窮暮之戰が終結し、この世界に残った魔族たちが次々と狩られていく中、人間に化けた彼女は、その絶世の美貌で周囲の者たちを次々と誑かし、ついには西幽の皇帝の寵姫にまで登り詰めたのであります。
 そして皇帝を唆して宮中で、そして西幽で無数の死をばらまいたのですが――油断からその正体が露見して護印師たちに追い詰められ、ついに誅滅されてしまった照君臨。しかし用意周到な彼女は、自らの肉体を滅ぼした聖剣に自らの魂を憑依させ、魔剣として生まれ変わったのであります。かくて魔剣・七殺天凌として再び世に現れ、手にした者たちを操って、以前よりも多くの犠牲者を出したのですが――殤不患に封じられてしまったのは、第二期で描かれてしまったとおりです。

 そんな彼女の話を聞いて驚き怒ったのは刑亥であります。自分が復活させた魔神・妖荼黎をこの世界から放逐した殤不患が、七殺天凌までその手にかけていたとは――彼こそはまさに自分たち魔族にとって不倶戴天の敵と見定めた刑亥は、何やら策があるらしく、七殺天凌に対して「お任せ下さい」と胸を張るのですが――なんだかんだで抜けているこの人の場合、そうやって自信ありげにしている方がヤバいというか、殤不患にとっては安心なような気がします。そもそも、アナタの不倶戴天の敵は凜雪鴉でしょうに……

 と、知らぬところで仇敵たちが盛り上がっているとも知らず、ようやく浪巫謠のところに戻ってきた殤不患と捲殘雲。捲殘雲が持ち帰った霊薬を早速飲ませてみれば、人事不省だった浪巫謠もすぐに意識を取り戻したのですが――薬の出処を悟った浪巫謠は、死にかけとは思えない剣幕で、殤不患に食ってかかります。睦天命が会いたがっているであろうことを知りながら会おうとしない殤不患に怒る浪巫謠ですが――お、なんだか矢印が色々絡まってる感じだな、というところで、次回はこの三人の因縁が描かれる模様です。


 まるで妲己か玉藻前か、と言いたくなるような七殺天凌=照君臨の過去話。殺戮描写に遠慮のない本作らしく、かなり生々しいシーンも描かれ、重い気分になりましたが――上にも書いたとおり、その直後に自信満々な刑亥を見ていると、何だか気が楽になりました。今回散々偉そうにしていた七殺天凌も、前作では婁震戒に迫られてドン引きしていましたし、禍世冥蝗も凜雪鴉が懐に潜り込むことになって――と、悪役側の今後が気遣われる本作であります。
(そして男を操っているようで結局男の手に握られないと何も出来ない七殺天凌と、たとえ盲目になっても毅然として立つ睦天命は好対照と感じます)


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