「コミック乱ツインズ」2021年6月号(その一)
号数の上ではもう今年も折り返し地点に来た「コミック乱ツインズ」、6月号の表紙は最終章突入の『仕掛人藤枝梅安』がメイン。巻頭カラーは『鬼役』、特別読み切りで玉彦『凛九郎』が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。
『ビジャの女王』(森秀樹)
蒙古軍に攻められるペルシャ高原の小都市・ビジャを巡る攻防を描く連載第二回――もはや風前の灯となったビジャを救うため、ビジャ王の娘・オッドはある策に賭けることになります。が、その策というのが、インドにいるという墨家の子孫、すなわち「インド墨家」に頼る! というものだったために、色々な意味で不穏な空気が漂います。
前回、ビジャの人間から募った決死隊はあっさり全員死亡、それを受けて姫が提案した次なる手段は、蒙古人の捕虜を解放し、使者になってもらおうというもの。馬の乗り手という点では右に出る者がないで蒙古兵にインドまで走ってもらう、というのは確かに一番可能性が高い手段かもしれませんが――姫の誠意もあって、蒙古兵のノグスを始めとする五人の捕虜が決死隊二番手となるものの、しかし……
と、異端「時代劇」というだけあって(?)まだまだ先が見えない本作。辛うじて希望は繋がったものの、本当にインド墨家は存在するのか、いたとして手を貸してくれるのか? 何よりも二万の蒙古軍を相手に持ちこたえることができるのか――先はまだ長そうであります。
『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
佐内と根岸による暗殺の連続に敵方の報復の動きも見え始め、いよいよ不穏さが増す本作。それでも三人の標的の最後の一人・高島を標的として、佐内たちは動き始めることになります。
密偵の亀吉の手引きで、高島が道場に通う帰りを狙う佐内と根岸。雨が降りしきる中、雨具に身を包んで(蓑笠姿の根岸と対照的に、合羽を着込んだ佐内のファッションが素敵)不意打ちを仕掛けた二人ですが……
と、ここで思いもよらぬ大殺陣が展開することになる今回。ここのところすっきりしない戦いが続いていたような気もする佐内ですが、その飢えを癒やしてくれるように、凄絶な戦いが繰り広げられることとなります。
この派手な、しかしその一方で地に足の着いた剣戟描写は、まさに本作の魅力の一つですが――その中で佐内が見せる決してヒーローではない等身大としての剣士としての姿もまた、本作ならではのものといえるでしょう。そしてそんな等身大の剣士だからこそ、時には鬼のような行動に出てまで、己の腕を磨く必要がある――そう感じます。剣豪ものにして、アンチ剣豪ものともいうべき本作。佐内の複雑なキャラクターは、そんな本作の構造によるものなのかもしれません。
などと思っていたところに、ラストではそれまでとは全く違うベクトルで佐内が思わぬ窮地に……。絵面だけ見ていると、何だかこう、ちょっと別の文脈に見えないこともない場面ですが、とにかく佐内のこの後の動きが気になりすぎる引きであります。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
売り言葉に買い言葉で、新井白石から絵島事件の裏を探るように命じられた聡四郎。事件の直接の仕掛人が紀伊国屋であることまでは確かめた聡四郎ですが、しかしその背後にいる黒幕・柳沢吉保はあまりにも巨大で――と、悩む聡四郎の前に現れたのは、当の柳沢の配下である黒覆面こと永渕啓輔。その永渕の師は浅山鬼伝斎――聡四郎の師である入江無手斎と壮絶な死闘の果てに破れた剣鬼であります。
お役目と剣流と、いわば二重の因縁を持つ聡四郎と永渕、ついに今回、この二人が正面から激突することに……
と、「暁光の断」編に入ってからまだ剣を抜いていない印象があった聡四郎が、ここで最強の敵と対決。一放流と一伝流、ともに静の中から動に移る中に秘奥がある剣同士の戦いは、師匠同士のそれとはまた異なる形の死闘として、描かれることになります。
まさに息詰まる対峙からの爆発的な威力を見せる剣のぶつかり合いの結末は――いやはや、凄まじいものを見せていただきました。
しかしそんな死闘の陰では、新たなる強敵が――という不穏極まりない形で次回に続きます。(しかし本作の敵、基本的に皆偉そうですね)
残りの作品は次回に続きます。
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