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2021.06.23

深谷陽『童の神』第1巻・第2巻 漫画が再現する人の多様性と生命力の姿

 次々と快作・話題作を送り出している今村翔吾の代表作『童の神』漫画版の単行本第1巻・第2巻が同時刊行されました。漫画化を担当するのは、東南アジアを題材としたエキゾチックな作品を得意とし、『艶捕物噺』『大関ヶ原』等の歴史時代ものも発表している深谷陽であります。

 平安中期、ふとしたことから盗賊団・滝夜叉の頭領・皐月と出会い、密かに愛し合うようになった安倍晴明。その繋がりで、京人から差別される先住民「童」たちとの共存を図ろうとする源高明の企てに加わった晴明ですが、蜂起の計画は源満仲の裏切りにより瓦解することになります。
 辛うじて童たちとの関係を知られずに済んだ晴明は、数年後に起きた皆既日食を利用して童たちの恩赦を得るのですが――その日に生まれた越後の郡司の息子・桜暁丸は、亡き異国人の母から受け継いだ相貌もあって、周囲からは禍の子と呼ばれて疎まれることになります。

 それでも父とかつて高明の蜂起に参加した師・蓮茂の愛を受けて逞しく成長した桜暁丸ですが、父が満仲によって謀反人の汚名を着せられたことから運命は一変。一人、京に逃げ延びた桜暁丸は、役人ばかりを狙う強盗になるのでした。
 しかしある晩、渡辺綱と坂田金時に追い詰められる桜暁丸。その窮地を貴族盗賊の袴垂に救われた彼は、貧しい人々のために貴族から財を盗む袴垂に共感し、行動を共にするようになるのですが……


 この第2巻までで、原作の四割程度までを漫画化した本作。すでにここまでで、晴明、滝夜叉・鬼・土蜘蛛ら各童の頭領、源満仲・頼光父子、いわゆる頼光四天王、桜暁丸父子と蓮茂、そして袴垂とその兄・藤原保昌と、虚実交えたオールスターキャストが、入り乱れて活劇を展開することになります。
 その個性豊かなキャラクターたちは、作者ならではの描線の太く濃い絵柄で描かれていますが、なるほどこのキャラクターは確かにこういう顔であった、と原作読者でも納得であります。
(ちなみに第1巻の表紙は晴明と皐月、第2巻は金時と綱と、それぞれコンビで描かれています)

 この漫画版は、ストーリー展開的には原作に極めて忠実であって、その点では意外性はないのですが、これはまずやむを得ない点でしょう。物語の導入部ということもあり、この第2巻までの部分では、かなり重く悲しい展開が連続するのも、原作通りということで……


 さて、私はこの漫画化の第一報を目にした時、作画者の名前を見て喜ぶと同時に、いささか意外に思ったのもまた事実でした。
 確かに冒頭で述べたように、作者は歴史時代ものの著作も少なくない(私が初めて読んだ作品も『艶捕物噺』でした)のですが――最近の作品で言えば、バリ島を舞台とした妖怪コメディ『ティガチャンティック』のように、東南アジアを舞台あるいは題材とした、エキゾチックな作品がメインという印象があったからであります。

 しかし本作を実際に読んでみて、そして作者の他の作品を改めて読み返してみて、自分なりに納得するものがありました。
 本作の中心となる「童」という存在、そして異国の血を引き、童たちとも縁浅からぬ桜暁丸という主人公――それが象徴するものは、この国が、かつて(そしてもちろん今に至るまで)決して唯一つの文化や民族のみで構成されていたわけでなく、そしてそんな切り分け方自体への眼差し(あるいはさらに強い感情)なのでしょう。

 そしてそれを支える、人間という存在の多様性の肯定、さらに言えば人間それ自身の生・生命力の肯定――それは、作者の東南アジアものの基調を成す、猥雑でしかしどこまでもパワフルな、人々の多様性と生命力に繋がるものであると、僕は感じます。

 作者のタイ料理屋を舞台とした人情コメディ『スパイスビーム』で、出自も年齢も性別も皆異なる人々が、美味しい料理を口にした時にそれぞれに浮かべる喜びの表情を見開きで描いた、私の大好きなシーンがあります。
 もしこのシーンを桜暁丸や童たちが見れば、「これこそが自分たちが求めてきたもの」と頷いてくれるのではないか――というのはさすがに妄想が過ぎますが。


 何はともあれ、その画においても精神においても原作を再現している、そしてこの先も再現するであろう本作。物語はこれからが本番、桜暁丸と童たちの生命の軌跡を見届けたいと思います。


『童の神』(深谷陽&今村翔吾 双葉社アクションコミックス(月刊アクション)) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon

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