« 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第10話「聖剣の秘密」 | トップページ | こはく『平安あかしあやかし陰陽師』第1巻 超美人・賀茂光栄、怪異に挑む »

2021.06.07

張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第5巻 新展開!? 道術バトル編開幕……?

 千年の齢を経た狐・廣天を狂言回しに、古代中国の怪談集『捜神記』の世界をコミカルに描く連作シリーズも、この巻から新展開。なんと廣天と仲間たち(?)がデス裏切り騙し合い死の借金バトル賭博ゲームに挑む――というとちょっと言い過ぎですが、とにかく驚きの道術バトル編に突入です。

 母の親友であり、何故か自分を付け狙っていた妖狐・阿紫との対決を終え、過去の因縁から解放された廣天。以前から住んでいた燕昭王の墓陵に戻り、親友の神木(鉢植え状態)と平和に暮らしていた廣天ですが、ある日突然再開発で墓陵を追われることになります。
 そこで謎の医者の元に押しかけた廣天と神木ですが――すったもんだの挙げ句、医者や宋定伯とともに崖落ちした廣天は、川を流された末に、豪商の商荘なる人物が顔役を務める里に辿り着くことになります。

 ところがその里では、商荘が道士? を集めて賞金を出すという大会が開かれるとのこと。しかも副賞で山が贈呈されると聞いた三人は参加を即決するのですが、そこに集ったのは、いずれも一癖も二癖もありげな面々ばかりだったのです。
 年少ながら易断の名人の典風、隠形の術を得意とし異常に長い覆面と爪を持つ黄極君、妙な術を使うという美女・娟玉、不吉な予言を告げる黒ずくめの周南、なんかよくわからない謎の人――かくてここに「神異道術場外乱闘編」がスタートすることに……!


 前巻で廣天自身の物語がいい感じに終わり、さてこの後どうするのだろう? と思っていたところに、ラストで予告されたこの「神異道術場外乱闘編」。いや、これは絶対(おまけページの現パロ的な)ギャグ予告だろうと思っていたら、本当にトーナメントバトルが始まったのは、さすがに驚かされます。

 ちなみにこの大会、ルール自体は
・別々の屋敷に泊まっている道士たちを商荘が個別に訪問して術を見る
・一ヶ月後、商荘の屋敷の指定の部屋に最初に入った者が賞金と山を得ることができる

という二点なのですが、まあ大金と山がかかっている大会で、一ヶ月間出場者たちが黙っているはずもありません。
 というかまず廣天と宋定伯が黙っていないわけで、一ヶ月の間にほかの出場者を潰しにいく――というバトルが展開されることになります。

 そんなわけでこの巻では、廣天vs典風、宋定伯vs黄極君のバトルが描かれるのですが、しかしそれにしたって本作でどうやって――と思いきや、これがなかなかきっちりとバトルを、それもこれまで同様「捜神記」を題材にしつつ描くのですから、さすがに驚かされるほかありません。
 また、過去のエピソードが思わぬところで絡んできたり、以前の登場人物が意外なところで再登場したり――という本作の仕掛けはここでも健在。例えば今回は典風の大伯父という設定で占いの名人・管ロ(以前第三巻で冥府の皆さんにトラウマを植え付けるきっかけになった人)が登場するのですが、この辺りはやはり楽しい趣向です。


 もちろん、本作特有のユルいギャグセンスもまた健在で、トーナメントバトルの方も、まあいつものノリで展開していくのですが――しかし、油断していると、思わぬところでシリアスな、重い展開が描かれるのも本作であります。
 この巻でも、新婚である主催者の商荘が全く妻を表に出さず、その一方で夜になると異様に大きい人(としか言いようのない謎の人物)とともに山に向かっていたり――と何やら非常に不気味な裏がありそうなのであります。
(と思ったら実は本当に大柄な奥さんなだけだったりするかもしれないので、油断できないのですが……)

 何はともあれ、まだまだトーナメントバトルは始まったばかり。意外に見えて、しかし違和感なく面白いこの新展開、この先も楽しみにして良さそうであります。


『千年狐 干宝「捜神記」より』第5巻(張六郎 KADOKAWA MFコミックスフラッパーシリーズ) Amazon

関連記事
 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第1巻 怪異とギャグと絆が甦らせる新しい古典の姿
 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第2巻 妖狐、おかしな旅の末に己のルーツを知る……?
 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第3巻 「こちら側」と「それ以外」の呪縛が生む悲劇
 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第4巻 妖狐、冥府に「魂」の在不在、滅不滅を問う

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第10話「聖剣の秘密」 | トップページ | こはく『平安あかしあやかし陰陽師』第1巻 超美人・賀茂光栄、怪異に挑む »