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2021.06.04

殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第7巻 食事が繋ぐ若者たちの日常と幕末の激動

 斎藤一、沖田総司ら、新選組に集う若者たちの姿を「食事」を通じて浮き彫りにする新選組漫画――その最新巻では、いよいよ本格始動した新選組が、あの事件に突入することになります。日常と非日常の狭間で、彼らは何を見るのか……

 壬生浪士組からの改名、そして芹沢鴨一派の粛清を経て、ついに近藤勇ら試衛館組を中心に動き出した新選組。そこに集う若者たちも、風雲急を告げる京の情勢の中で、忙しい日々を送るのでした。

 しかしその動きの中で、人斬りに慣れていく自分に戸惑う総司、負傷して一線から退き土方との間の溝を深めていく山南と、少しずつ悩みを深めていく者も現れることになります。
 そんな中、長州藩を中心に不穏の動きを強める攘夷浪士たち。その一人・古高俊太郎を捕らえた新選組は浪士たちの恐るべき計画を知ることになります。祇園祭の喧騒の中、浪士たちの潜伏箇所を探す新選組ですが……

 というわけで、前巻で芹沢の最期が描かれ、そしてこの巻では池田屋事件に突入と、いよいよ新選組が本格的に動き出す本作。新選組ものとして、史実を踏まえた部分は実はオーソドックスな本作ですが、この辺りはやはり実に盛り上がります。

 そんな中で、本作の特色である「食事」ですが
・正月の祝い肴
・京の商家の宴席での食事
・そばがき
・祇園祭の粽
と、なかなかのバラエティ。しかもそれぞれが、その時の新選組の立場や経験した出来事とリンクしていくことになります。
 たとえば公武合体のための将軍上洛で新選組もお役御免と思い込んだ八木家主人の大盤振る舞い、犬猿の仲の土方と山南が列席する宴席(針のむしろのような席につきあわされつつ、豪華な食事に集中しようとする一が可笑しい)というのもなかなか面白いのですが、特に印象に残るのは後ろの二点でしょうか。

 古高を捕らえた蔵の見張り役を務める一と総司に藤堂が差し入れたそばがき――これだけ見ると何事もないようですが、しかし新選組ファンであれば、この時、蔵の中で何が行われていたかはよくご存知でしょう。
 若者たちの平和な食事風景と、それと裏腹のあまりに血腥い尋問(この作品で、土方のアレを正面から描くとは思いませんでした)と――日常と非日常の境目をこのような形で描くのは、本作では初めてではありませんが、しかし内容が内容だけに、その落差は強烈であります。

 一方、祇園祭の粽は、会津藩との合同出撃を待つ間、動きがないのに焦れた原田の提案で、総司、一、藤堂の四人が祭り見物に出かけて――という展開で描かれることになります。
 はたしてこの状況でこういうことがありえるのか、というのは私はわかりませんが――言い出しっぺが原田というのは、これは納得ではあります――池田屋事件という新選組史上の大事件を前に、若者たちの日常が描かれるというのは、やはり本作ならではの趣向でしょう。
(このような形で新選組と祇園祭を描いた作品は、実はあまりなかったようにも思われます)

 もちろん、これまでも本作における食事は、このような形で一たちの日常と歴史上の事件を結びつける役割を果たしてきました。そんな中で、特に今回この食事が有機的に物語の中で活きているように感じられたのは、これはあるいは、描かれる史実の大きな――両者の落差の大きさによるものかもしれません。


 さて、祇園祭での長閑な一時は終わり、ついに池田屋に乗り込む近藤たち――という場面で終わるこの巻。
 この先、新選組にはさらなる激動が待ち受けていることは言うまでもありませんが、この先も、若者たちの日常と幕末の激動を食事がどのように結びつけてくれるのか、期待するとしましょう。


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