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2021.06.22

青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第3巻 金と宋の関係、宋の中の事情

 北宋の徽宗皇帝の時代を舞台に、宋を訪れた金の皇女アイラの恋と冒険を描く歴史漫画の第3巻であります。宋の軍事機密である火薬を巡る陰謀に巻き込まれたアイラの(一方的な)想い人・白凜之。彼の冒険はアイラたちの運命とも関わり、思わぬところで大事件に発展して……

 親善大使として宋の都を訪れたアイラ。旅の途中で、そして宋に着いてからも幾度も窮地に陥った彼女たちを助けてきた宋の花火の工匠・白凛之に、アイラはベタ惚れであります(――が、凛之には全くその気なし)。
 そんな中、凛之の上司が金目当てで火薬を横流ししていたことが判明。初めはどこかの闇商人かと思われたその相手は、実は遼人であり、仲間に化けて潜入した凛之は窮地に陥ることになります。が、刺客を送ってきた遼人を追って、アイラと兄たちが駆けつけ……

 という場面から始まるこの第3巻。ああよかった、これで助かったと思いきや――元々アイラの兄・オリブから疑われていたところに、遼人の装束でその場に居合わせたことから、凛之はまた別の窮地に陥ることになります。
 それでも火薬の存在はいわば軍事機密、事態の全てを語るわけにはいかない――苦しい立場に立たされる凛之。何とかその場は切り抜けたものの、しかしアイラと凛之たちを襲う本当の危機は、これからだったのであります。

 というわけで、前巻の食中毒&刺客騒動から一変、物語は凛之の側にと思いきや、さらにアイラの側と合流し、意外な展開を見せることになります。その結末はここでは伏せますが――印象に残るのはオリブの存在でしょう。
 金の二太子にして名将として歴史に残るオリブ。それが本作においては、もちろんその側面は持ちつつもアイラにデレデレのシスコンお兄さんなのが愉快な一方で、彼は一貫して凛之には厳しい目を向けてきました。

 それは単純に妹をたぶらかす奴(事実誤認)だから、という理由だけではなく、金と宋という二つの国に横たわる本質的な、そして歴史的・政治的な理由にもよるものなのですが――それだけに、凛之の存在、というより行動を認めるこのエピソードの結末は、人と人との心が通じ合った瞬間を目の当たりにできたようで、嬉しい気持ちになれるのです。(ところが……)


 そしてこの巻の後半からは新展開――オリブとウジュが北方の戦線に参加するために帰還する一方で、アイラは引き続き金と宋の友好のため、宋に残ることになります。
 皇宮に滞在することとなった彼女は、そこで絵画マニアの皇帝(史実)と親しく話すようになり、そして最も彼に可愛がられている第三皇子・ウン王の存在を知ることになります。

 その一方で、アイラと縁談が持ち上がっている康王(この巻の表紙)は相変わらず裏表のある猫かぶりっぷりで、アイラとの相性は最悪。
 そしてその康王に懐いていた妹の円珠は、最近冷たくなった兄に悩んでいて――というところで、紆余曲折を経てすっかり円珠と仲良くなった(微笑ましい!)アイラが一肌脱ごうとしたことで、また思わぬ騒動が起きることになります。

 寡婦であるため、人前で美しく着飾ることができない円珠。夜の庭園で密かに着飾っていた彼女をそれぞれの形で支えるアイラと康王ですが、そこを何者かに目撃され――ってこのシルエットはどう見ても?
 それをきっかけに思わぬ形で前進(?)するアイラと康王の関係。しかし目撃者探しは、まったく意外な方向に展開していくことに……

 本作を読んでいるとどうしても金と宋の関係に目が行きますが、しかしこの時代の宋の国内も色々と大変なことになっていたのは、たとえば水滸伝ファンであればよく知るところでしょう。
 この新展開で描かれるものは、あるいは、いやおそらく、その宋の国内事情に関わるものなのでしょう。だとすれば、この展開の背後にいる人物も想像できるのですが、それはそれでこの先かなりややこしいことになりそうな……


 天真爛漫で前向きなアイラの活躍に胸踊る本作ですが、やはりその背後に――そしてこの先に待っているのは厳然たる史実。
 果たして本作がそこにどのように至るのか、そしてそれをどのように描くのか――優れた歴史ものならではの楽しみが、本作には確かにあるのです。


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