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2021.06.09

ファー「冬の蝶」/中村茉莉子「花桐」 バラエティに富んだ漫画版『百夜・百鬼夜行帖』

 電子書籍として刊行され、既に百話を突破した平谷美樹の『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの漫画版が、「いわてマガジン」の第6号と第7号に掲載されました。ファーによる「冬の蝶」、中村茉莉子による「花桐」――描き手が異なれば味わいも異なる、そして原作ファンも納得の二編であります。

 岩手在住であり、岩手や東北を題材とした作品が少なくない平谷美樹。津軽の修法師・百夜を主人公としたこの『百夜・百鬼夜行帖』シリーズもその一つです。
 そのシリーズを、「岩手マンガ家を応援する」をキャッチフレーズとする「いわてマガジン」で漫画化したのがこの二編であります。

 まず「冬の蝶」(ファー)は、記念すべきシリーズ第一作の漫画化。薬種屋・倉田屋の裏庭に現れた季節外れの白い蝶――主人の徳兵衛からその正体調べを依頼された百夜が、手代の左吉を助手代わりに謎解きに挑む物語であります。
 主人公である百夜、そしてシリーズレギュラーである左吉と徳兵衛の紹介が描かれるということもあってか物語的には比較的シンプルですが、しかし白い蝶に見えたものが実は――という謎解きは、漫画化に適したものといえるでしょう。

 そしてもちろん、百夜のビジュアルも良くできています。
 盲目で侍言葉を操る美少女修法師(本作ではちらりとしか見せませんが仕込み杖の達人でもある)という、ある意味実に濃いキャラクターである百夜。原作の方では挿絵のベリーショートの印象もあってかなり凜々しい彼女を、本作は適度に娘らしく描いているのは、これは違和感ないアレンジといえるでしょう。(この世ならぬものを見る時に彼女の目が開く、という描写も良いのです)

 また、左吉も元々がコメディリリーフだけあって、漫画的なデフォルメが主体なのも楽しく、ストーリーだけ見れば重く湿った物語になりかねないところに、うまく緩急をつけていると感じます。


 一方、奇しくも岩手の県花を題名に冠した原作第37話「花桐」(中村茉莉子)は、吉原を舞台とした物語であります。
 吉原で客や金棒引きが、己の顔をした花魁という奇怪極まりない存在に出くわすという事件が続発。「影の病」(ドッペルゲンガー)ではないかと怖れる客の依頼で吉原常磐楼を訪れた百夜は、俎(前帯)に桐の花の刺繍がされていたというその花魁の姿から、景迹を巡らせることになります。

 原作では吉原という舞台、そして何よりも怪異のビジュアルが印象的なエピソードですが、本作はそれをグッと頭身の上がった、落ち着いたビジュアルで漫画化。決して華やかなだけではない、かといって暗いだけでもない吉原の空気を、巧みに描いていると感じます。

 さらに、今回初登場であり、シリーズのサブレギュラーとなる花魁の七瀧と、老女の亀女のビジュアルも秀逸。特に、若い頃はさぞや――と思わせる亀女のちょっとした表情などは、原作だけではなかなかイメージできなかったものだけに、感心いたしました。
 また、これは原作にもあったシーンですが、七瀧の前で娘らしい顔を見せる百夜の姿も印象に残ります。

 そしてクライマックス、花魁衣装に身を包んだ百夜が怪異と対峙する場面の見開きは、こうくるか! というビジュアルで、こちらも大いに納得であります。
(ちなみに作者の作品としては同誌の第6号にオリジナルの「運命の道成寺」が掲載されています)


 というわけで、どちらの作品もファンの目から見ても納得のいくものであった今回の漫画化。
 今後の予定はわかりませんが、原作もバラエティに富んだ内容だけに、なろうことなら、この先もバラエティに富んだ執筆陣による漫画化を見てみたいものであります。


「冬の蝶」(ファー&平谷美樹 「いわてマガジン」第6号掲載)
「花桐」(中村茉莉子&平谷美樹 「いわてマガジン」第7号掲載)

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