赤名修『賊軍 土方歳三』第4巻 激突、沖田総司vs薬丸自顕流!
旧幕府軍の一翼を担い、東北各地で連戦する新選組。賊軍の汚名を着せられていた彼らに、ついに逆転の機会が回ってきます。寛永寺の輪王寺宮を東武皇帝として担ぎ、第二の官軍となろうとする旧幕府軍。本作もタイトル変更か、と思いきや、薩摩の陰湿な動きが迫り……
東北各地で善戦を続けながらも、土方曰く「シャッポ」がないために、圧倒的に不利な立場にあった旧幕府軍。しかしそんな中、上野寛永寺から原田左之助の犠牲もあって輪王寺宮が脱出、「東武皇帝」を名乗るのを決意したことから、にわかに情勢は動き始めることになります。
日本に二つの王朝が立つという状況に、官軍のみならず勝海舟も焦りを見せる中、西郷のみは冷静にこの構想の急所を指摘し……
ということで、東武皇帝を戴く東北王朝構想を巡る暗闘がメインとなるこの巻。西郷が指摘する弱点というのは、奥羽鎮撫総督として仙台にいながら、旧幕府軍に同情し、東北王朝で太政大臣の役についた九条道孝――彼を仙台から、親旧幕府と親新政府が拮抗する秋田に移したことにより、一気に情勢は旧幕府軍に不利に傾くことになるのでした。
これに対し、九条道孝引き渡しを求めて秋田に向かう仙台藩使節の護衛となった市村鉄之助=沖田総司。緊張感のない使節団の中でただ一人臨戦態勢の総司ですが、はたしてその前に現れたのは、薩摩最強の剣客にして薬丸自顕流の達人・大山格之助だった――というわけで、総司は本作始まって以来の難敵を迎えることとなります。
大山格之助(大山綱良)は、同じ薩摩の大山巌と混同されたりと、正直なところ知名度は高くないものの、精忠組の一員として西郷・大久保隆盛と行動を共にした人物。正直なところ、軍人としての功績は(本作ではもう少し先の話となりますが)あまり芳しくないものがありますが――むしろ剣客として歴史に名を残している感もあります。
何しろ、かの寺田屋騒動の際に上意討ち前提の鎮撫使の一人として選ばれている格之助。その流派は上記の通り薬丸自顕流――古流の剣術にして超実戦派の剣術、作中でも言及されるように、近藤勇をして「薩摩の初太刀は避けろ」と言われたほど、受けのできない攻撃特化の剣術であります。
このある意味因縁の流派を向こうに回し、総司の剣も冴えに冴えるのですが、しかし多勢に無勢、窮地に陥ったところに差し伸べられた救いの手は――と、ここで東北での戊辰戦争ものではお馴染みのあの人物が登場! というのも盛り上がるところです。
しかし、やはり史実の壁の前には苦い結末が待っているわけで、何ともすっきりしない展開となるのがやるせない。
登場した時はあまりの大ネタに興奮させられた東武皇帝の登場も、おそらくはこのまま有耶無耶になりそうで、タイトルどおりといえばそのとおりであるものの、やはり口惜しい。大山鳴動して鼠一匹、というと駄洒落のようですが……
そしてこの巻の後半では、会津藩主・松平喜徳暗殺計画が描かれることになります。
この巻の時点ではまだ計画は実行に移される前の段階ですが、喜徳や白虎隊士に慕われる土方の微笑ましい姿(年齢詐称で白虎隊に入った飯沼貞吉も登場)から一転――捕らえた間者に「あの拷問」を食らわせる鬼っぷりが印象に残るところです。
この巻では大きく追い込まれてしまった感のある旧幕軍ですが、まだまだ苦境は続きそうです。
ちなもにこの第4巻には、作者が約18年前に発表した新選組漫画『ダンダラ』を収録。しかしそれが第1話全編と第2話の冒頭というちょっと変わった形式の上、この第4巻全体の四割程度を占めているのが、これまたすっきりしないところです。
いずれにせよ、『ダンダラ』については別に取り上げたいと思います。
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