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2021.06.12

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 4章 犬士の絆』 荘助の激情、荘助の戦う理由

 朝日小学生新聞連載中のフルカラー漫画、『異界譚里見八犬伝』の第4章全3話であります。物語の視点は信乃から荘助へ、古河から大塚村へ移り、思わぬ惨劇が描かれることとなります。これまで常にクールな顔を崩さなかった荘助が見せる激情とは……

 信乃が芳流閣で大立ち回りを繰り広げた末に現八、小文吾と出会い、ヽ大から自分たちの宿命を聞かされた頃――途中で別れた信乃がそんな状況になっているとは知らず、大塚村への帰路を行く荘助。
 しかしその途中、何者かに左母二郎が斬られたことを知った彼は大塚へ急ぐのですが――時既に遅し、左母二郎から村雨を奪った代官・ひがみ宮六と配下たちが村人たちを次々と襲い、蟇六は斬られ、亀篠や番作夫婦も窮地に陥っていたのでした。

 一人逃れたものの、宮六に追い詰められた浜路。その場に駆けつけた荘助は、宮六を斬って浜路を助けたかに見えたのですが……


 原典でも描かれた村長屋敷での惨劇と、荘助による仇討ち。本作においてはそれがさらなる規模で以て描かれ、そこから荘助自身のドラマに繋がっていくことになります。

 冒頭で配下たちが烏に啄まれながら平然としているという異様な描写(道節配下の深淵衆が、心音の数が少ないと忍びの耳で察知する描写もいい)があるように、原典とは異なり、明確に人外の存在と化している代官一行。
 彼らによって蟇六だけでなく、糠助や亀篠、番作・手束夫妻、そして浜路までが、ある者は命を奪われ、ある者は傷つけられることになります。

 原典と比べると、大塚村の人々の生死に異同があった本作ですが、それはこの展開のためであったか!? と思わされる、ギリギリの惨劇描写ですが――そんな中、蟇六があっさり退場する一方で、亀篠に思わぬドラマがあるのも感心――しかし何よりもそこから、荘助の内面描写に繋がっていくのに驚かされます。
 本作においては、信乃と心は通わせつつも、自分も同じ牡丹の痣を持つことは語らずにいた荘助。その点も含めて、本作クールな執事的キャラは、漫画的なキャラクター付けかと思っていましたが――しかし大塚村崩壊に至り、そんな彼の心の鎧の理由と意味が明かされるのです。

 この仇討のくだりは、原典ではある意味荘助の見せ場の一つではあるものの、あまり派手ではないのと、いかに主とはいえ正直なところ悪人・小人物であった蟇六夫婦の仇討ちにカタルシスが感じられないのが正直なところでした。
 このように原典での荘助は、今ひとつ地味な印象があるのですが、ここで彼の内面をこのような形で描くことによって、キャラクターを掘り下げると同時に物語のテンションを一気に跳ね上げてみせるのには、感嘆するほかありません。

 そして、荘助の奮闘でも惨劇は回避できず、今度こそ倒れかけた荘助の前に現れるのが道節というのも漫画的に熱い展開といえるでしょう。しかもこの展開、本作では回避された円塚山のくだりのある意味アレンジになっている(荘助が一時的に忠の珠を持つくだりをこう描くか、という点も含めて)のにも、また唸らされます。
 特にこの二人が、どちらも自分たちが犬士であると知らないにもかかわらず、自然に力を合わせる展開に、本章のタイトルを重ね合わせると、グッとくるものがあるではありませんか。(この場面が描かれる下巻で初めて表紙が変わるというのもまた意義深い――というのは贔屓の引き倒しかもしれませんが)

 この先のボス戦は実に少年漫画的アレンジではあるのですが、その根底に原典を踏まえたこの精神、この設定に据えることで、本作はやはりどこまでも「八犬伝」であると、そう納得させられるのです。


 そしてラストではあの人物が思わぬ運命を辿るのですが、なるほどこうなるのであれば、原典のあの展開はこう変わっていくのだろうな、と想像させてくれるのも心憎いところであります。(伏せてばかりで恐縮ですが、このアレンジはぜひ実際にご覧いただきたいところです)

 さて、この4章の冒頭には、まだ登場していない三人の犬士の姿もちらりと描かれており、それがまた実に「らしい」のがまた嬉しい本作。
 犬士二人でこれだけ盛り上がるのであれば、この先の犬士たちが集結してのあの場面、あのくだりはどうなってしまうのだろう――と、胸は今から高鳴ってしまうのであります。


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