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2021.06.19

馳月基矢『帝都の用心棒 血刀数珠丸』 梁山泊屋敷の腕利き、妖刀を追う!?

 デビュー作『姉上は麗しの名医』で、日本歴史時代作家協会の文庫書き下ろし新人賞を受賞した作者による伝奇アクション――大正時代の帝都を舞台に、妖刀にまつわる連続殺人に訳あり用心棒コンビが挑む、虚実入り乱れた活劇であります。

 巷で囁かれる、人々を血祭りにした後に血染めの数珠を残す妖刀の噂。梁山泊屋敷の腕利きコンビ・加能碧一と行成光雄は、東京帝国大理学部の山川健次郎教授から、この血染めの刀を目撃した刀剣マニアの帝大生・中村泉助の身辺警護と真相究明の依頼を受けることになります。
 妖刀の影を追って奔走し、次の犠牲者と目される人物を知った二人は、ついに人斬り刀を振るう巨漢と対峙するのですが――相手は二人がかりで辛うじて撃退するのがやっとの遣い手だったのであります。

 犠牲者たちの共通項を追う中、近頃一部の富裕層から絶大な支持を受ける謎の女性・多摩峰トワ子が主催する「蜘蛛の会」なる団体が、近頃刀剣を集めているのを知った二人。
 常にヴェールで素顔を隠したトワ子とは何者なのか。凶行を繰り返す巨漢の正体と目的とは。そして妖刀の正体は、天下五剣の一つにして今なお所在不明な数珠丸なのか?

 藤田五郎翁や梁山泊屋敷のお嬢様・千鶴子も巻き込んだ乱戦の末に明かされる真実とは……


 というわけで、大正刀剣伝奇アクションとでもいうべき本作ですが――まず印象に残るのは、多彩かつ魅力的なキャラクターでしょう。

 そしてその中でも中心となるのは、もちろん主人公二人――美形ながら人嫌いで酒浸り、剣の達人にもかかわらず刃を嫌う碧一、如才なく明るい男ながら得体が知れず、飛び道具や潜入術を得意とする光雄であります。
 全く正反対のキャラクターを持つ二人がコンビを組み、時に衝突しながらも互いの得意分野を活かして活躍――というのはバディものの定番ですが、本作はまさにその魅力が横溢しているといえます。

 さらに感心させられるのは、二人が属する「梁山泊屋敷」の設定であります。
 よろず請負業である水城よろづ商会の本拠である屋敷、人呼んで梁山泊屋敷。そこには、日頃から各分野の腕利きが腕を撫してたむろっている――なるほど梁山泊とはよく言ったものですが、どんな腕利きが、そしてどんな過去を持った者が居てもおかしくないとこの設定は、宝の山というべきでしょう。(実は物語の結末も、この設定ならではというべきなのもまた巧みです)

 そしてこの屋敷の令嬢である千鶴子も、好奇心旺盛なじゃじゃ馬という、ある意味定番キャラかと思えば、その度合いと能力(特に戦闘力)の高さが段違い――と、登場人物一人ひとりについて語っているだけで終わらなくなってしまうような個性的な面子揃いなのであります。
 そしてその一方で史実のキャラクターも、明治・大正ものでは常連(?)の藤田五郎だけでなく、山川健次郎がメインキャラクターの一人という変化球。それも本作ならではの人物像で描かれているのも楽しいところなのです。(ちょい役で山本忠次郎が登場するのにもニヤリ)


 そして本作のもう一つの主役が、刀剣――その中でもタイトルロールともいうべき数珠丸であります。
 いわゆる天下五剣――童子切・鬼丸・三日月・大典太そして数珠丸。その中で日蓮上人の護刀であった数珠丸は、唯一武張った逸話を持たぬ刀であり、かつこの物語の舞台となる大正2年の時点では行方不明となっていたという特殊な刀であります。

 そんな数珠丸が連続殺人に使われた!? という謎で物語を動かしてしていくのは実に面白い趣向であると同時に、人を斬らない数珠丸を、既に戦で使われることがなくなった刀たちの象徴としている――さらにそこに碧一ら時代の流れから外れた者たちを重ね合わせている――のも印象に残ります。
 さらにこうした数珠丸の、この時代の刀剣の存在が、犯人の動機と犯行内容に結びついていくのもまた見事で、この辺りは一種のミステリとしても納得いくものがあります。


 そんな盛りだくさんの要素を巧みに配置した上で、スピィーディーかつドライに展開していく、ハードボイルドタッチも魅力の本作。
 まだまだ解き明かされていないキャラクターたちの過去や因縁も多く、そして上に述べたようにいくらでも応用の効きそうな梁山泊屋敷の設定もあり、ぜひとも続編を期待したい快作であります。


『帝都の用心棒 血刀数珠丸』(馳月基矢 小学館文庫) Amazon

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