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2021.07.15

『神遊び』(清水朔 集英社文庫)の解説を担当いたしました

 本日発売の『神遊び』(清水朔 集英社文庫)の解説を担当いたしました。『奇譚蒐集録』の作者のデビュー作――祭りの夜に禁断の遊び「神遊び」に手を出した者たちの運命を描く表題作(2001年度のノベル大賞・読者大賞受賞作)をはじめ、全四編を収録した怪異譚であります。

 同窓会に出席するため、七年ぶりに故郷の上山村を訪れた俊介。祭りの準備も忙しい村の分校で久々にかつての仲間たち三人と再会する俊介ですが、彼らと今はここにいない明を加えた五人は、七年前の祭りの夜、村に伝わる「神遊び」を行ったという過去があったのです。

 祭りの晩に、十二歳の五人組で神輿よりも先に旅所(神輿が休憩する社)にたどり着いて、自分の大切なものを備えて願い事をすれば叶う――そんなルールのある神遊び。しかしその遊びには、同時に怖いものに遭うという噂もあったのです。
 そんな神遊びをほんの好奇心から行った俊介たちですが、しかしある出来心から明は帰らぬ人となったのでした。

 その痛みを抱えながら、明を偲ぶ俊介たちですが、しかしそこに意外な知らせが知らせが入ります。そしてかつての悲劇を繰り返させないため、俊介たちは再び神遊びの道を辿ることに……


 そんな表題作をはじめとして、本作は神遊びを軸に繋がった四編の物語から構成されています。
 かつて神遊びを行った過去を持つ女子大生が、人生最悪の日の締めくくりに、悪夢めいた出来事に遭遇する「空蝉」
 時代は遡って太平洋戦争以前の上山村で、山人からルールを教わり、神遊びを復活させてしまった少女たちの姿を描く「カタシロ」
 そして現代を舞台に、その後の上山村の姿とある真実が語られる「神送り」

 本書の元版は、「神遊び」「空蝉」「カタシロ」の三編を収録して2003年に集英社コバルト文庫で刊行されましたが、今回はそれに「神送り」を書き下ろして実に18年ぶりに刊行された、いわば完全版というべき一冊となっています。


 さて、ここでお気づきの方も多いとは思いますが、本書はいわゆるホラーに分類される作品ではありますが、時代ものではありません(「カタシロ」は、私の定義では時代ものに入るのですが、まあ)。
 それでも私が解説を担当させていただくことになったのは、これはこれまでに私が書いたものを信頼いただけたということかと思いますが――同時に、好きな作家、大正民俗伝奇ミステリ『奇譚蒐集録』シリーズの作者のデビュー作の解説を書くというまたとない機会に、私が大喜びしたというのも確かなところであります。

 しかしそんな事情はともかく、本書が純粋に面白く、内容豊かな作品であることは間違いありません。
 本書で描かれているのは、誰の心にもあるノスタルジックな記憶をかき立てる怪異譚や、過去の後悔との対峙であると同時に、それを乗り越えようとする人の心の力であり――それは幅広い読者層に届くポテンシャルを持つ物語であると感じます。そしてそこにあるものは恐怖だけでなく、どこか暖かさや爽やかさを感じさせるものでもあるのです。

 そして『奇譚蒐集録』ファンには、風習というものを物語る際のアプローチや、意外なところで展開される伝奇的趣向、あるいは人物配置などの点で、本作との共通点を見つけられるのではないか――そう感じます。


 と、あまり色々と書いてしまうと解説をご覧いただく必要がなくなってしまいかねないので、この辺といたしましょう。
 ――いや解説はさておき、ぜひ作品そのものをご覧いただき、作者の原点と、その豊かな物語世界を確かめていただきたいと思います。

 どうぞよろしくお願いします。


『神遊び』(清水朔 集英社文庫) Amazon

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