唐々煙『MARS RED』第3巻 決戦、そしてヴァンパイアたちの最後の任務
アニメも先日完結した大正ヴァンパイア伝奇、この漫画版も第3巻で完結であります。秀太郎ら零機関の4人のヴァンパイアたちの前に現れる真の敵とは。そして帝都を大震災を襲う中、ヴァンパイアたちの成すべきこととは――哀しき生き物たちの物語が終わりを告げます。
帝国陸軍が開発したヴァンパイア兵士・金剛鉄兵――その実働部隊である十六特務隊・通称「零機関」所属の秀太郎・山上・スワ・タケウチの4人のヴァンパイア。彼らは、帝都で無差別に人を襲うヴァンパイアたちを追って、戦いを続けてきました。
その果てに、ついに横浜赤レンガ倉庫が敵の本拠と思しいと突き止め、未知の敵である異国のヴァンパイアたちが犇めく敵地に挑む零機関。しかしその間に上層部は金剛鉄兵計画の中止を決定。事態は風雲急を告げる中、秀太郎たちの戦いの行方は……
という決戦ムードから始まるこの最終巻。しかしその異国のヴァンパイアとの「決戦」は、あまりにも意外かつ滑稽で残酷な形で決着することになります。
そして異国のヴァンパイアたちがほぼ滅んだ時に現れた、S級ヴァンパイア・デフロット。帝国劇場で主演俳優を務める美少年にしてその実、600年もの永き時を生きてきたデフロット――敵の首魁と思われた彼は、ここで意外な真実を語ることになります。そう、零機関の面々は、金剛鉄兵ではないと。
その言葉に応えるかのようにその場に現れ、残敵を残忍に掃討していく装甲兵の群れ――それこそが真の金剛鉄兵=心を持たないヴァンパイアだったのであります。
自分たちの信じていたもの、依って立つ場所を奪われ、黒幕と対峙する秀太郎たち四人。しかし黒幕の操るS級の金剛鉄兵の正体に、四人は大きな衝撃を受けることになります。
そして絶望的な戦いが始まった大正十二年九月朔日午前十一時五十八分、その時こそは……
かくて決戦からもう一つの決戦へ、大きな変転を迎える4人のヴァンパイアの運命。組織に所属して任務を遂行する主人公が、その組織から裏切られ、敵対することになる――というのは意外でありつつも、ある意味定番のパターンかもしれませんが、本作はそこから、さらに意外な展開を迎えることになります。
本作の冒頭で描かれた関東大震災のシーン。崩れ行く帝国劇場に取り残されたデフロットと、秀太郎の幼馴染の葵のもとに、秀太郎が駆けつけるというその場面に、物語は収斂していくことになります。
とはいえ、その場面だけ見れば何が起きているかは一目瞭然ながら、果たしていかなるシチュエーションで起きることになったかは、当然冒頭の時点では謎。そしてここで語られるその内容について、ここで詳しくは述べません。
しかし、望まぬ形でヴァンパイアとなり、軍の命で戦い続けてきた――戦う相手が「同族」であったことは、これは人間でも同様ですが――秀太郎にとって、いや彼の仲間たちにとって、このラストの「任務」は、大いなる救いであったと言うべきでしょう。
ヴァンパイアとして生きることとなった者たちを描いた本作。その生の在り方は、当然ながら、彼らがかつてそうであった人間とは大きく異なるものではあります。
しかしその心の在り方は、人間のそれと変わるものではない――いや、変わらぬように努めることができる。そう、この世に生きる者として――本作はそのことを描いて結末を迎えます。
ヴァンパイアと人間の間にあるもの――古来から様々な物語で描かれてきたそれを、本作は本作ならではの形で描ききりました。
聞くところによれば、アニメ版はこの漫画版とまた異なる結末を迎えたとのことですが――遅ればせながら、こちらも見届けなくては、と考えているところです。
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