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2021.07.16

坂ノ睦『明治ココノコ』第2巻 尾をなくした九尾狐とニゴリモノの間にあるもの

 文明開化の明治を舞台に、物の怪の成れの果て・ニゴリモノと対決する特別警察隊に任命された(元)九尾狐のビャクを描く物語の続巻であります。所属は自分一人――いや正確には八本の尾の化身である狐たちもいるのですが――で、怪事件相手に孤軍奮闘しようとするビャクの運命は……

 既に物の怪が消え去った明治の帝都・東京。そこで引き起こされるこの世のものの仕業とも思えぬ事件に頭を悩ます川路大警視は、協力関係にある天狐から、一人の少年(?)を紹介されることになります。

 実は彼こそは、かつて天狐に封印された九尾狐。今は九本の尾のうち八本を失った彼は、尾を取り戻すためにやむなく警視庁ニゴリモノ対策課の邏卒隊に加わることになったのであります。
 そして元の姿に戻るまでは白(ビャク)と名乗ることを宣言した九尾狐ですが――何と失われた八本の尾は、それぞれ独立した妖狐として生まれ変わっていて……


 と、ニゴリモノ退治以外に、それぞれ自分の意思を持ってしまった尾の回収という難題まで背負うことになってしまったビャク。何しろ彼らはビャクに心服しない限りは元に戻ることはなく――そして彼ら一人ひとりが持っている能力は、力の多くを失ったビャクにとっては貴重な戦力なのですから、まことにややこしい状況であります。

 第1巻の時点では
・相手の動きをコピーする金(キン)
・眼を合わせた相手を幻術にかける銀(ギン)
・言葉も話せず何の能力があるかもわからない赤(シャク)
・草木を自在に操る緑(ロク)
・口にしたあらゆる物質の成り立ちや仕組みを知る事ができる黄(コウ)
と5人が登場し、さらにもう一人、ビャクに強い敵意を燃やす謎の妖狐・黒(コク)が登場したのですが――この第2巻においては、残る2人がついに登場することになります。


 日暮れ刻にある路地を通ると、あるはずのない屋敷が現れ、そこに魅入られて吸い込まれた人間は、二度と戻ってこない――偶然町で知り合った山出しの少女がこの屋敷に引きずり込まれたことを知ったビャク。
 しかしこの屋敷に入れるのは人間のみであり、妖は近づくことすらできなかったことから、ビャクはやむなくロクとコウが作った人化薬で人間となって向かうことになります。

 呪術を得意とするヤンデレ妖狐・青(セイ)から三枚の札を手に入れたビャクですが、しかし彼は、尾たちを連れていくのではなく、単身で踏み込むことを選びます。それも、尾たちは自分の同胞ではなく、天狐が自分の尾にかけた「呪い」と言い放った上で。


 本作において、ビャクが挑むこととなるニゴリモノ。それは人々に忘れ去られて、かつての名と姿を失った妖たちであります。
 そんなニゴリモノたちを、ビャクは妖の風上にも置けぬ存在と徹底的に嫌悪し、叩き潰そうとするのですが――さて、そのニゴリモノと、本来の力を失い名も変えたビャクと、どれほどの違いがあるのでしょうか?

 もし違いがあるとすれば、ビャクは己がかつて何者であったかという自覚は失っていないという点ですが――しかしかつての自分の一部であった尾たちに自ら背を向け、ただ一人のビャクとなった彼は、本当にかつての九尾狐と同一の存在、いやそれ以前に一人前の妖といえるのか? だとすれば彼もまた、ニゴリモノと大差ない存在なのではないか?
 このエピソードにおいては、そんな厳しい問いかけがビャクに対して行われることになります。そしてそれに対するビャクの答えは、ある意味意外とも、納得とも言えるのですが、それが正しいかといえば……


 というわけで、本作ならではの物語が展開されるこの巻ですが、しかしこの辺りは完全に妖の世界の話であって――今回もニゴリモノによってビジュアル的にも人数的にも洒落にならない被害が出ているだけに――事件解決しても単純に「どんどはれ」という気分にはなれませんし、ビャクはともかく、ニゴリモノにも相変わらず感情移入は難しいところであります。

 この巻のラストでは、コクが協力するニゴリモノを操る謎の怪人によって、浅草十二階を思わせる、しかし遥かに禍々しい楼閣が誕生するという新たな事件が描かれますが――さてそこでこれまでの印象を覆すような物語が描かれることになるのか、注視するしたいと思います。


『明治ココノコ』第2巻(坂ノ睦 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon


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