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2021.07.22

恵広史『カンギバンカ』第3巻 初陣! 九兵衛と元就と経久と

 今村翔吾の『じんかん』を大きくアレンジして描く漫画版『カンギバンカ』、いよいよ佳境の第3巻であります。ようやく出会った仲間たちのほとんど失い、それでも残った夢を叶えるため、弟の甚助らとともに堺に向かった九兵衛。そこでの出会いが、ついに九兵衛たちを戦場に立たせることに……

 厳しく辛い流浪の果てに、ようやく見つけた仲間たちを思わぬ裏切りから失い、甚助と日夏とともに山寺に流れ着いた九兵衛。その住職・宗慶和尚がある人物と結びついていることを知った九兵衛は、今は亡き多聞丸が遺した「奪い奪われることのない場所(くに)をつくる」という夢を叶えるため、甚助、そして曲直瀬一渓とともに、その人物――三好元長と会うために、堺を訪れることになります。

 ところが堺で手荒い歓迎を受け、元長の橋渡しである武野新五郎からも一度は拒絶されてしまった九兵衛。しかし彼の情熱が元長その人を動かし、九兵衛と甚助、一渓は、元長の命で安芸に向かうことになります。
 そこでこれから始まろうとしていたのは、三好の協力者である尼子経久と、大内氏配下の蔵田房信と直信が守る鏡山城を巡る戦い。そこで多治比元就の隊に加えられた九兵衛と甚助は、初めて合戦というものを経験することに……


 というわけで、この巻の後半から展開するのは、鏡山城の戦い。正直にいって、知っている方はそれほど多くはない合戦だと思いますが――まだ多治比の姓を名乗っていた(そしてこの直後に毛利の家督を継ぐ)元就がその才を見せた戦いであり、また後に因縁の間柄となる尼子経久の下について戦ったという点でも興味深い戦いではあります。

 そして彼らと戦ったのが蔵田房信と直信――史実では甥と叔父だったようですが、本作では兄弟という設定。傲岸ながら知恵の巡る房信と、猛将ながら兄にコンプレックスを持つ直信は、九兵衛と甚助のネガともいうべき存在として、描かれているといってよいでしょう。
 そしてその直信と九兵衛・甚助が戦場で相対した時、まさにその点が大きく作用し、戦況を大きく動かすことになるのですが――そこにある人物の深謀遠慮があったというのもまた、なかなか面白い趣向でしょう。


 ただ――実をいえばこの鏡山城の戦いのくだりは、原作には全く登場しないエピソード。前巻で描かれた、九兵衛と甚助が和尚を治療できる一渓を呼びに行くエピソードもオリジナルでしたが、あちらが一挿話であったのに対して、こちらは九兵衛たちの初陣を描くという点で、大きくウェイトが異なることになります。
 正直なところ、上で述べたようにあまり有名ではない、そして後に九兵衛と歴史上で大きく関わるわけでもない元就と経久がメインとなる合戦をここに持ってくる意図は、いかにも不思議に感じられます。これも上で述べた、九兵衛・甚助と房信・直信、二つの兄弟の対比もありますが、それも史実をわざわざアレンジしているわけで……

 考えられるのは、共に謀将であり、下剋上を成し遂げた元就と経久が轡を並べたこの合戦に九兵衛が参加したことが、後世の彼に影響を与えたという展開ですが――その予想が当たっているか否かは、この巻のラストで描かれる、経久の非情の策に対して九兵衛が献じた策の内容と結果を見れば、わかるような気がいたします。


 というわけで次巻は鏡山城の合戦のクライマックスですが、これは同時に本作そのもののクライマックスでもあるようです。
 実は本作はこの第3巻の発売とほぼ同時に連載終了。この想像以上に早い完結には、さすがに驚き、落胆したところではありますが――しかし本作がいかなる結末を迎えるのか、まずは見届けたいと思います。


『カンギバンカ』第3巻(恵広史&今村翔吾 週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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