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2021.07.13

技来静也『拳闘暗黒伝セスタス』第6巻・第7巻 セスタス、ドサ回りの巡業へ……

 アニメ放送は先月終了したセスタスですが、そちらの紹介で何度も述べたとおり、アニメでは原作のかなりのエピソードが省略されています。今回紹介するのはそのうち原作の第6巻・第7巻――ドリスコ拳闘団に加わったセスタスが、各地の拳闘興行において繰り広げる戦いが描かれることとなります。

 ヴァレンス拳闘士養成所の崩壊と、それに巻き込まれて婚約者を失ったルスカとの友情の終わり――そして自分を買ったネロの寄せる過剰な想いを受け止めかね、再び拳奴となることを選んだセスタス。

 その結果ドリスコ拳闘団に買われた彼は、ローマを離れ、各地で拳闘興行に出場することになります。
 というわけで、ここで描かれるのは、いわばセスタスのドサ回り。これまでローマの闘技場で戦っていたセスタスが、各地で思いもよらぬ相手と対峙することになります。

 まず6巻の舞台となるのは、かつて奴隷たちが蜂起して帝国を揺るがした奴隷戦争勃発の地・カプア。そしてそこでセスタスが対決するのは職業拳闘士のオルレンテス――セスタスとは対照的に強面で恵まれた体格の、そしてザファル曰く「古式ゆかしい典型的な拳闘士」です。
 要はその体格で強引に正面から殴り勝つタイプですが――こうした対象的な相手こそ、セスタスが乗り越えるべき壁であります。そして試合の方は、相手の攻撃をかいくぐって常に死角に位置を占め、三半規管を的確に狙った打撃で見事快勝!

 が――ここで待ち受けていたのは何と二連戦。闘技場に伝わる陰惨な伝説が形を成したような異形の存在・カプアの黒猿との対決が待ち受けていたのであります。
 同じザファルの弟子三人を前座代わりにけしかけ、その上で話題作りのためにセスタスを戦わせるというドリスコの悪辣な仕掛けに憤りつつも戦うしかないセスタス。しかし相手の卑怯かつラフファイトに大苦戦することになります。ここでパニックに陥ったセスタスが見せたのは――ブチ切れての大暴走。

 あの大人しいセスタスが、突如ヤンキーのような言動で大暴れ、黒猿をボッコボコにして逆転勝利を飾るのですが――しかし緒戦とは正反対の、単なる喧嘩のようなファイトにザファルは激怒、何とも苦いものを残して、カプアでの戦いは終わることになります。

 ちなみにここで試合以外に注目は、ザファルが過去の彼を知り、目的としてきたというラドックに対して、セスタスを「俺の負債」「自由へ導く責任がある」と語るくだり。今なお謎に包まれたセスタスの出自とザファルの過去として、貴重なシーンであります。


 一方、第7巻では帝国屈指の貿易港・ネアポリス(現ナポリ)が舞台となります。この街で開催される剣闘試合の前座に参加することになったセスタスは、それまで荷運びをすること(辛い奴隷の現実……)になり、埠頭の奴隷頭・クァルダンと知り合うのでした。
 ザファルと同郷のヌミディア出身であり、気さくな中年男性であるクァルダンに、親近感を抱くセスタス。クァルダンも故郷に残してきた息子と同年代のセスタスを何くれとなく面倒を見るのですが――実はそのクァルダンこそが次の対戦相手だったのであります。

 自分と変わらぬ小柄な体格ながら強烈なパンチを持ち、そして逆構えのクァルダンに、セスタスは苦戦を強いられるのですが……
 と、どこか谷口ジローチックな風貌のクァルダンをもう一人の主人公として描かれるネアポリス編。人間臭いクァルダンの存在が、しみじみと辛い物語を浮き彫りにするのですが――ここでは同時に、それと対極の存在が描かれることになります。

 それが剣闘試合に招かれた流浪の職業剣闘士集団・剣闘結社「ケルベロス」――殺戮を見世物とする不敗の怪物たちであります。
 それぞれが神話の神々や怪物を名乗り、殺人のプロとして強烈な存在感を放つ覆面の剣闘士四人。彼らはクァルダンとは同じ世界の存在とは到底思えないのですが――本作は時々こういう実に「漫画的」存在を投入してくるのが面白い――結末に至り、この両者が意外な形で交錯することで、なおさら物語の苦味が際立つのです。

 この巻以降、今に至るまで再登場はないケルベロスですが、読者人気が高いだけに、おそらくいつかまた登場するのでしょう。といっても展開的にいつ出られることか……


『拳闘暗黒伝セスタス』(技来静也 白泉社ジェッツコミックス) 第6巻 Amazon/ 第7巻 Amazon

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