峰守ひろかず『妖怪大戦争ガーディアンズ外伝 平安百鬼譚』 平安伝奇ものにして見事に「妖怪大戦争」の大快作
この夏公開される、三度目の妖怪大戦争、『妖怪大戦争ガーディアンズ』。前作同様、今回も現代が舞台とのことですが、その外伝たる本作は、何と平安時代を舞台とした物語であります。映画の主人公の先祖にあたる渡辺綱と山の民の娘・トキら四天王が、平安京を騒がす妖怪たちに挑みます。
ある日突然集落を襲った妖怪・猿神によって、家族や仲間たちを全て失った山の民の少女・トキ。猿神を追って駆けつけた渡辺綱と、仲間の卜部季武、碓井貞光に助けられたトキは、妖怪の居場所や気配を遠くから探り当てる能力を買われ、綱の屋敷に引き取られることになります。
表向きはさる貴族の娘・時子、綱たちを助けて妖怪たちと戦う時には、男装の斧使い、坂田金時として――!
かくてトキを加えて四天王となった綱たちですが、四人を待っていたのは、日夜を問わず平安京とその周辺を騒がす怪事件の数々でありました。
これまでには考えられなかったような頻度と激しさで暴れまわり、そして本来であれば京周辺には存在しないはず妖怪たちを退治するために奮闘するトキたち。これに対し、大陰陽師・安倍晴明は、この怪事の陰には、異国の大妖怪の存在があると語るのでした。
しかし一向に敵の存在が掴めぬ中、今日も妖怪と対峙する四天王。その中でトキが知ってしまった、恐るべき真実とは……
冒頭で述べたとおり、現代の日本を舞台に、渡辺綱の子孫である少年を主人公とする『妖怪大戦争ガーディアンズ』。映画にも渡辺綱は(おそらく過去のイメージで)登場するとのことですが、本作はその綱が活躍した平安時代を舞台とした、直球の平安伝奇活劇であります。
言うまでもなく渡辺綱といえば、主の源頼光、そして自身を含めた頼光四天王とともに、大江山の酒呑童子をはじめとする数々の妖怪変化と対決した、平安のゴーストバスター。この時代を舞台とした伝奇ものの、ほぼ常連というべき人物であります。
本作は、そんな綱を中心に据えつつも、奇しき因縁で彼らと共に戦うこととなった山の民の娘・トキを主人公とすることで、人間と妖怪の関わりを、より多様な視点で描くことになります。
その妖怪ですが――いまや妖怪小説といえばこの人、という作者が描くだけあって、登場する妖怪たちの描写と、彼らにまつわる伝承・伝説の解説は、まさに自家薬籠中の物。
妖怪たちの多くは、本作ならではのアレンジがほどこされているものも少なくない(それこそほとんど怪獣レベルの存在もいる)のですが、そこは基礎がしっかりあるからこその飛躍というべきでしょう。
そして、その妖怪たちに挑む四天王の造形も、それぞれ個性的で好感が持てます。
武士としての使命感に燃える豪の者ながら、心に優しさを持つ好漢・渡辺綱。見鬼の力を持つだけでなく、京人と異なるフラットな視点で物事を見ることができるトキ。さらに管弦と弓、大きく異なる道を共に得意とする季武と、荒っぽい性格ながら、関東出身ゆえの視点と想いを持つ貞光……
そんな彼らは、平安京を守るために戦う、いわば人間側の戦士であり、妖怪たちの敵であります。しかし物語が進む中で、彼らの妖怪たちに対する姿勢は徐々に変わっていくことになります。更にトキ――なりゆきから四天王に加わったものの、本来であれば京とは無縁の彼女が、京のために戦う理由もまた。
そしてその変化が、やがて人間と妖怪の関係性にも大きな変化をもたらすさまは、なかなかに感動的なのです。
しかし本作は外伝とはいえ妖怪大戦争。やはり妖怪たちの大暴れも見てみたい――その願いは、クライマックスで叶えられることになります。終盤の展開に大きく関わるために詳しく述べることはできないのですが、絶望的な状況に集結し、雄々しく激しく、賑やかに能天気に大暴れする妖怪たちの姿は、まさに「妖怪大戦争」と言うほかないでしょう。
しかもクライマックスではとんでもないゲスト(?)も登場。あちらにアレが登場することは聞いていましたが、こちらにはコレか! 確かにこの名前で呼ばれることもありましたが――とネタバレ防止のために代名詞ばかりで恐縮ですが、ぜひその眼で、台詞の一つ一つまで確認して、ひっくり返っていただきたいと思います。
というわけで、ユニークな妖怪もの、平安伝奇ものであると同時に、見事に「妖怪大戦争」であった本作。独立した作品として楽しいことは言うまでもなく、本編である映画の方も楽しみになる――そんな理想的な外伝であります。
『妖怪大戦争ガーディアンズ外伝 平安百鬼譚』(峰守ひろかず KADOKAWAメディアワークス文庫) Amazon
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