青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス 2』 名探偵対怪盗対超人対怪物団対怪物探偵
怪物たちや怪人・名探偵が「実在」する世界を舞台に、鳥籠使い一行――怪物専門の探偵と半人半鬼の青年、クールなメイドが怪事件に挑むシリーズの第2弾であります。ドワーフの秘宝を狙うルパンに、ホームズと共に挑むことになった鳥籠使い一行。さらに奇怪な敵たちが加わり、五つ巴の大乱戦に……
19世紀末、首から下の肉体を奪われ、鳥籠に収めた首だけとなった「不死」の美少女(齢約千歳)輪堂鴉夜と、何者かに「鬼」の血を注入され、半人半鬼と化したお調子者の青年・真打津軽。
自分の首から下を奪った謎の老人を追い、お抱えのクールなメイド・馳井静句と三人で欧州に渡り、怪物専門の探偵「鳥籠使い」として活動していた鴉夜は、ロンドンで新たな依頼を受けることになります。
かつて「八十日間世界一周」を成し遂げた大富豪フィリアス・フォッグ。彼の元にある人工ダイヤ「最後から二番目の夜」――14世紀に人狼に滅ぼされたドワーフ族が造り出し、同じく造り出した純銀製の金庫に収められたその秘宝を盗み出すと、あの怪盗紳士ルパンが予告状を送りつけたのであります。
これに対してフォッグ氏が対応を依頼したのが鳥籠使い一行と――かの名探偵シャーロック・ホームズ! 早速火花を散らす二人の名探偵(とその助手たち)。さらにそこにロイズ保険機構から諮問警備部の超人エージェント二名が派遣されることになります。
一方ルパンの側は、パリのオペラ座から「盗み出した」オペラ座の怪人を配下に活動を開始。それぞれのチームが前哨戦で小競り合いを繰り広げた後、レストレードとガニマールも警備に加わり、秘宝争奪戦の幕が上がることに……
というわけで、一冊丸々「最後から二番目の夜」争奪戦が描かれることとなる本作。そしてなんと言ってもその最大の魅力は、前作はプロローグと言わんばかりのオールスターキャスト、クロスオーバー全開の大混戦でしょう。
何しろ、ドイルが、ルブランが、ヴェルヌが、ルルーが(名前だけ登場するルールタビーユもそうでしょう)、さらにはレ・ファニュが生み出したキャラクターたちが結集、それぞれ実にらしい形で活躍してくれるのですから、もうたまりません。
もちろん、前作でも濃厚だったミステリ味は、本作でも健在であります。今回は謎解き(暗号解読もありますが)というよりも、一種のコンゲーム――秘宝とそれが収められた金庫の争奪戦という趣向なのですが、そこでの各陣営の頭脳戦が実に楽しいのです。
そもそも金庫があるのは、フォッグ邸の地下室――三つの鍵で守られた巨大な鉄の扉の奥、小さな通気口以外は外に通じる道はないという密室。そこからダイヤル式の金庫に守られた秘宝を盗み出すという、ほとんど不可能としかいいようのない難事を、如何にルパンが成し遂げるのか、そしてホームズが、鴉夜が如何に阻むのか――その丁々発止のやり取りが、本作中盤の最大の見せ場なのです。
楽しいのは、そのどれもが実にそのキャラクター「らしい」やり方であることで――ああ、ルパンならこうする、ホームズならやりかねないと思わされたところに鴉夜がまた「やられた!」としかいいようのない行動を見せてくれて、もうニヤニヤが止まりません。
しかし、本作の魅力はそれだけにとどまりません。争奪戦がひとまず落ち着いたかに見えた頃――そこから始まるのは、頭脳戦ではなく肉弾戦。ルパン・ホームズ・鳥籠使い・ロイズに加えてもう一派、五つ巴になっての大バトルが展開するのであります。
この戦いはほとんど能力バトルというべきものなのですが――これまた各キャラクターが「らしさ」を披露してくれるのが嬉しい。しかし能力バトルといってもルパンやホームズが? と思われるかもしれませんが、彼らもそれぞれの能力を――本作らしいアレンジで発揮、怪物たちの中でも一歩も引けを取らない活躍を見せてくれるのです。
個人的に嬉しい驚きだったのはオペラ座の怪人で――ちょっとこの面子の中では(戦闘能力的に)一枚落ちるかなと思いきや、そう来たか! と納得の能力で活躍してくれるのには拍手喝采なのであります。
そして素晴らしいのは、これだけのキャラクターを活躍させつつも、ほぼ誰一人として格を落としていないことで――その分、ロイズ勢が体のいいやられ役になっている感は否めませんが――この辺りも、クロスオーバーものとして、大きな愛を感じるところです。
しかしフォッグ邸での対決は終わったものの、それは新たな戦いの始まりに過ぎません。次なる戦いは――第3巻に続きます。
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