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2021.07.17

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝』完結!

 ビジュアル・ノベル『絵巻水滸伝』が今月15日掲載分を以って完結しました。1998年5月より連載がスタートし、2007年10月で第1部が完結、2008年6月より始まった第2部もついに――方臘との戦いが終結し、そしてエピローグも終わり、水のほとりの物語はついに大団円を迎えたのであります。

 文・森下翠、画・正子公也のコンビで、実に23年に渡り描かれてきた『絵巻水滸伝』。我が国では少ないようでいてそれなりの点数が刊行されてきた水滸伝リライトですが、その中でも、質・量ともに最高の水滸伝といえます。

 原典にあった、現在の(日本の)読者から見れば違和感がある部分や、個性に乏しかったあるいは出番が少なかった好漢の描写を巧みにアレンジし、時に武侠小説のテイストや他の中国古典の要素も散りばめる――そんな手法により、本作は水滸伝という物語の骨格と魅力はそのままに、しかしその面白さは幾層倍にして描いてきました。
 そしてその姿勢は冒頭から最後の最後に至るまで、変わることなく貫かれたのです。

 特にその姿勢が強く出ているのは、第二部――原典の七十一回から百二十回まで、すなわち百八星が集結してから、梁山泊が滅ぶまでの物語であります。
 梁山泊が招安を受けて官軍となり、遼国・田虎・王慶・方臘を平らげる――原典のこのくだりは、そもそも梁山泊がお上の走狗となって戦うのはいかがなものかという点もさることながら、基本的に全編戦いの連続で、個性豊かな好漢たちがそこに埋没してしまっている、という印象が否めません。

 そして何よりも方臘戦では、それまで親しんできた好漢たちが、それこそ数行の描写で死体となったりと、ファンにとっては大いに辛い内容のですが――絵巻水滸伝は、そんな後半部分に丹念に(時に驚くほど大胆に)手を加え、好漢たちの個性と活躍はそのままに、波乱万丈の戦絵巻を描いてみせました。
 そしてそれが顕著なのはやはり方臘戦であります。梁山泊に匹敵する力を持つ敵の面々を個性的に描いて強敵感を煽るとともに、その強敵を前に一人ひとり散っていく好漢たちの姿を丹念に丹念に描いたこの方臘篇は、この長大な物語の掉尾を飾るに、相応しい内容というほかありません。

 もっとも、この本作ならではの掘り下げでもって思い入れ十分に描かれた好漢たちの最期は、これはこれで読者にとっては(そしておそらくは書き手にとっても)身の細る思いでもあったのですが……
(方臘篇のスタートは2013年7月、ちょうど8年間、その間本当に長かった!)

 何はともあれ、多くの水滸伝リライトでは(それこそ七十回本のように)省略されたり、大幅にアレンジされることの多かった後半部分を、最後まで描いたというだけでも希少なところ、梁山泊の最期を、物悲しくもどこか希望を感じさせる、そして(これが結構重要ですが)納得できる形で描いたのは、本作の最大の功績であり、魅力というべきでしょう。
 原典ではただただ物悲しく、納得のいかなかった宋江と李逵、呉用と花栄の最期が、これほど美しく描かれるとは……(そして李逵に泣かされるとは)


 私が絵巻水滸伝、いや正子公也の水滸伝に触れたのは(以前にも書いたかもしれませんが)、光栄のゲームの関連書籍である『水滸伝 天導一〇八星 好漢FILE』に掲載された、好漢たちのイラストによってでした。
 心の中で漠然とイメージを抱いていた好漢たちが、まさにそのままの姿で色鮮やかに飛び出してきたそのイラストの数々から受けた衝撃は、今でも忘れることはできません。

 この書籍の発売が1997年ですから、その衝撃を引きずって実に24年、四半世紀近く絵巻水滸伝を追いかけてきたわけですが、絵巻水滸伝ファンとして、水滸伝ファンとして全く悔いなし、と断言できます。
 第一部が新装版で20巻、第二部が招安篇5巻、遼国篇3巻、田虎王慶篇6巻、そしてこれから刊行される方臘篇が18巻予定と――実に全52巻となる本作。繰り返しになりますが、質・量ともに最高の水滸伝リライトとして、その名は残り続けると信じている次第です。

 そして、こればかりは原典に忠実な好漢たちのその後の描写を見れば難しいとはわかるものの、やはり生き残った好漢たち(特に二世世代)のその後の物語を見たい、という気持ちも強く強くあるのですが――まずは絵巻水滸伝、ここに大団円であります。


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