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2021.08.18

「コミック乱ツインズ」2021年9月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」誌9月号の紹介、後編であります。

『そば屋幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 『勘定吟味役異聞』はお休みの代わりに、一年ぶりに掲載の本作。旧友で南町奉行の常磐の、愛娘・世乃が何やら落ち着きがなく外出が多いという悩みに、玄太郎が一肌脱いで――とはならず、世乃と常磐家に奉公している娘・りょうの姿をそっと見守る(りょう曰く「うぜぇおやじ…ッ」なのですが……)のが、本作らしい展開といえるかもしれません。

 実は世乃はいま評判の茶屋娘が気になっている真っ最中。りょうとともにようやく茶屋に足を運び、憧れの人に声をかけられて有頂天になるのですが――そこでりょうが冷静に支えるのは、かつて色々とやってきた彼女ならではというべきでしょうか。
 シスターフッドというと大げさかもしれませんが、女の子同士の心の結びつき、信頼関係が気持ちの良い今回、締めの蕎麦も相変わらず美味しそうであります。


『懊悩寺おつとめ日鑑』(芳家圭三)
 特別読切の本作は、江戸時代の寺院を舞台としたちょっとエロティックな人情話です。
 江戸のとある寺に修行にやって来た青年僧・道慎。彼は寺領の畑にある民家に身を潜めていた子連れの女性と寺に出入り巫女を偶然見つけ、文字通りの口封じをされて気持ちは乱れるばかり。しかもその晩、寺の老師とこの二人のけしからぬ光景を目撃してしまい……

 と、艶っぽい話かと思えば、実は二人の女性の行動には重い理由があって――と意外な方向に転がっていく本作。女性が辛い現実の中で生きていくためには、腐った寺でも利用するしかないという苦さが印象に残ります。
 主人公が結局傍観者に留まるのはスッキリしないところもありますが、むしろそれ故に意味がある物語というべきでしょうか。(やはりどっちつかずの物語となっている感は否めませんが……)


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 山あり谷ありを乗り越えて、ついに浦上宗景に仕官することとなった八郎(直家)。しかし宗景を評するに、母はとにかく圧倒されると、そして阿部善定は八郎とは真逆と語るのでした。もちろん、二人の話に疑問符だらけの宗景と読者ですが――一ページめくってみたら一発で宗景のキャラクターがわかってしまうのが面白いというかさすがというか……

 陰キャの極みというべき八郎とは確かに対極ながら、しかし油断はできない人物の宗景。さらにそこに祖父の仇であり、自分たちが辛酸を舐める原因を作った島村盛実が現れ――ってそうくるか! という展開にはさすがに吹き出しました。
 本人はどう見てもツッコミ役の八郎ですが、周囲にボケ役は事欠かない様子――彼の色々な意味で苦難の道はこれからが本番でしょう。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 梅安という一人の仕掛人の物語を超え、完全に江戸の暗黒街の覇権を巡る組織と組織との抗争が展開する「梅安冬時雨」編。
 ついに直接襲撃を仕掛けてきた切畑の駒吉と羽沢の嘉兵衛の東西連合に対し、これを完全に予期していた音羽の半右衛門側は優位に戦いを展開。しかしそこに鬼札というべき北山要之助が乱入し――という場面で前回は終わりましたが、一度は梅安以外には興味がないと襲撃を断ったはずの要之助が何故この場に、という謎解きが冒頭で描かれることになります。

 そのきっかけとなったのがおしまというのはこれは予想通りではありますが、半右衛門の間者として白子屋方に潜入、そこで情を通じた相手を自分の手引きで討たせ、その後も引き続き間者を務めていた彼女の想いが、この非常事態をきっかけに決壊して――というのはそれなりに納得できる展開でしょう。
 しかし予想できなかったのは、ここで要之助や刺客たちを迎え撃った人物で――と、これは作者(作画者)らしい豪快な展開なのですが、しかしおしまとの対比としても、面白いところであります。

 そして己の快楽のためであれば味方をも嬉々として斬る剣鬼、いや剣狂というべき要之助が見せる人間味もまた面白い。やはりこの男を止めるのは(今回ラストにようやく登場した)梅安なのだと思いますが――クライマックスに向け盛り上がって来ました。


 次号は『カムヤライド』が待望の連載再開。今回お休みの『勘定吟味役異聞』も登場であります。


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