『MARS RED』 第2話「死が二人を分かつまで」
帝都を騒がす人体発火事件にヴァンパイアが関与していると睨み、零機関を動かして捜査を開始する前田。吸血鬼専門の商人・天満屋から、ヤミで流通する血清を入手した零機関は、それを手がかりに茅場町に潜伏する夫婦者のヴァンパイアを特定するが……
プロローグ的内容だった第1話に続き、物語が本格的に始まる今回。近頃巷で噂の人体発火事件――前回の岬の最期もその一つという扱いのようですが、それが彼女同様陽光に晒されたヴァンパイアが消滅したものと考えた前田は、ヴァンパイアを増やす原因、すなわち他者の血を吸うヴァンパイアがいると考えるのでした。
そして被害者の多い茅場町一帯で、最近引っ越してきた者を中心に調査を行うよう、十六特務隊に命じるのですが――その十六特務隊の虎の子が、ヴァンパイアに血を吸われながらも、中毒死することなくヴァンパイアとなり、理性を保って軍に所属する四名。シベリアで噛まれた栗栖秀太郎と山上徳一、マッドサイエンティストのタケウチ、面にも似たマスクで顔を覆うスワであります。
そんな秀太郎と山上、そして前田が向かったのは、吸血鬼専門の商店である天満屋。正真正銘の人間ながらその主人を務める慎之助から、商売敵の(つまりはモグリの)売血屋の存在を知らされた一行は、そこで手に入れた血清を手がかりに、十六特務隊の地道な捜査――要するにゴミ漁りなのですが、その際の前田の指令(必ず二人一組、安易に陰には踏み込まない等)がそれっぽくてイイ――によって、ついにターゲットを特定するのでした。
そのターゲットとは、政吉とおなつのカップル。文字通り世を忍ぶ仲の二人ですが、政吉が横浜で裏で流れている血清を手に入れたことによって彼が暴走、おなつはそれを止めようとしていたようですが――時既に遅し。
十六特務隊に踏み込まれ、包囲を脱出した二人は、前田の仕組んだとおり永代橋に誘導され、特務隊の待ち伏せを受けるのですが、ここで呑気に投降or死の呼びかけを行うのは、前回冒頭から登場している森山。その森山に襲いかかる政吉ですが、文字通り格が違うのか、秀太郎はあっさりとその攻撃をブロックしてしまうのですが――しかし秀太郎がそれ以上手を出しかねているところに、スワがあっさりと止めを刺します。
そして残されたおなつの方は、と思えば、こちらも勧告など聞かず――と、実はこちらの方がランクが高い、というか年季の入った吸血鬼。作中の台詞からすれば政吉より百歳上の彼女の猛追に、今度こそ森山は首筋を噛まれて倒れ、そして彼女に前田に襲いかかり――が、前田はおそらくは義手の右手を彼女の口に叩き込んで動きを止め、そしてそのまま叩き斬ってみせるのでした。
そして吸血鬼になるか、中毒死するか、いずれにせよ死を目前とした森山に、前田は自らとどめを刺して……
零機関のヴァンパイア四人組が登場して、冒頭に述べたとおり物語が本格的に始まった感のある今回。しかし物語の中心はあくまでも前田で――イジり相手の山上が登場してそのSっぷりを見せるものの、前回岬を、そして今回森山を失った彼の屈託が感じられる内容となっています。
そして四人組の方ですが、細かいキャラクター紹介はなく、物語の流れの中で、人となりが浮き彫りになっていく作りとなっています。能力的には最強ながら、まだ人間気分が抜けず、血清を摂取することもできない秀太郎(スワが殺した政吉の血が流れてきたのを思わず避ける描写が秀逸)、口うるさい中年ながらランク的には最低で、同期の前田が上官となって上で触れたとおりイジられる山上――タケウチとスワは描写が多くないものの、タケウチはあからさまに言動が怪しく、そしてスワは政吉に容赦なく止めを刺すなど、語らずともキャラクターを感じさせる描写は好感が持てます。
そしてそれを支えるのが声優陣。見てみるとレギュラー陣がえらい豪華な顔ぶれで、その演技が――例えば、声を聞いただけでヤバい奴だとわかる石田彰のタケウチなど――キャラクターを支えていると感じます。接的に森山を殺した感のある秀太郎役の畠中祐のフツーの兄ちゃんぽさも良かったと思います(そして格好良くない中年オヤジという最近では珍しい役どころの山寺宏一)。
その秀太郎といえば、今回前田とデフロットにそれぞれ出会いつつ、隙あらば秀太郎の話をねじ込む葵もある意味面白いキャラですが――シベリアで死んだと宣告された人間を日本で探し続けるというのは、さすがにどうなのかという気はいたします。
もう一つ、出番はあまり多くなかったおなつと政吉ですが、自分たちをお軽勘平になぞらえていたのが面白い。前回のサロメとは大きく趣は変わりますが、これも悲恋の舞台――本作の趣向なのでしょう。
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