『MARS RED』 第3話「夢枕」
Vウィルスの入った人工血液・アスクラの流れを追う中、吉原に運ばれていることを掴んだ零機関。しかし軍上層部の零機関への風当たりは強いものだった。その頃、山上から妻・富子の思い出を聞かされた秀太郎は、山上と富子を会わせるために夢枕作戦を立案。幽霊を装って富子の前に現れる山上だが……
前回登場した闇流通の人工血液(アスクラと呼ばれている模様)を引き続き追う中、一人の男を取り押さえた零機関。しかしその男はヴァンパイアではなく人間、すなわち運び屋でありました。
そんな地味な捜査を続ける中、中島中将とともに陸軍上層部の会議に出席することとなった前田ですが、上層部は20年かけて成果はようやくヴァンパイア4人という零機関に対して、否定的というより冷笑的な態度を見せるのでした。戦場を知らぬ彼らにとっては、軍務もまた政治の場。その一方で、もう若者を死なせたくないと語る中島中将に賛同する前田ですが――約20年前からということは、日露戦争での経験が中将の考え方を規定したということでしょうか。軍人としては一見立派に見えるものの、この手の話でこういう人物は暴走しやすい気も……
しかし自分たちがそんなハードな状況に置かれているとも知らずに、どこか呑気というかマイペースなのは、零機関のヴァンパイアたち。西洋の棺桶風ベッドに寝かされたのはいいけれども寝られないとこぼす秀太郎、永遠に若い頭脳のままで研究できることを喜ぶタケウチ(Vウィルス入りの血液を研究中、血液が眼球に触れたためにヴァンパイアになったという過去を、石田声で嬉々として語る)。そして山上は、自分の死亡届が既に出されていることを知り、これが初盆かと感慨深げであります。
仲間たちがそんな調子の中、スワのみは、浅草の雑踏の中で葵(しかしこの子は異常にヴァンパイアに関わりやすいな……)とともに行動しているデフロットを見かけたりと一人でシリアスですが……
そんな中、任務で浅草を訪れた山上は、四万六千日の喧騒を目の当たりにして、自分も妻の富子とよく鬼灯市に来たものだと語るのですが――そこで秀太郎が閃きました。Aクラスのヴァンパイアである彼の運動能力は、常人にとっては急に現れそして消えたも同然に見えるもの(冒頭で運び屋相手にさらりとそれを見せるのが巧い)。その能力を活かせば、相手に幽霊と思わせることができる――本当に大丈夫か? というアイディアですが、山上も半信半疑ながら、妻会いたさに秀太郎の提案に乗るのでした。
そして自分の灯籠を流しに来た富子の前に現れ、語りかける山上。お前の幸せを願っていると切々と語り、再婚してくれてもいいとまで伝える山上に対し、富子は良寛と恋人のやりとりの歌(原作者のブログ参照)を擬えて変わらぬ愛を告げ、そちらに行く前にまた会いに来てくださいと答えるのでした。
一方、アスクラの運び先が吉原だと知り、出動する前田ですが、しかしその途中で身体(心臓?)の不調を見せることに。そして先行したスワは、ヴァンパイアの犠牲者を発見し……
帝都で跳梁する謎のヴァンパイアの追跡という物語の大きな流れからすれば、敵の棲家らしい場所がわかっただけで、ほとんど動きはなかった今回。しかし吸血鬼ものとしては非常に興味深い、そして内容濃いエピソードであったと感じます。
ヴァンパイアの初盆という題材を扱った作品はこれまで寡聞にして知りませんでしたし、幽霊のふりをして人の前に現れる吸血鬼というのも、これもちょっと見たことのないユニークなアイディアですが――その根底にあるのが、残してきた愛する人に再会したいという、極めて根源的で切ない心であることで、一見コミカルな展開は、ググッとドラマチックなものとなります(そしてそれがヴァンパイアという西洋的存在と、お盆という日本の風習を結びつけるのも納得)
そして今回の主役というべき山上も、このために山寺宏一か! という演技で、物語を盛り上げていました。
それにしても前田の言う「人間の世界」が、国を守るという目的を掲げつつも、様々な欲にまみれたものとして描かれた一方で、生き血をすすって生きるヴァンパイアの純愛が描かれるのも、皮肉ではあるものの、実にいいと思います。(と、考えてみれば本作はここまで毎回、ヴァンパイアの純愛を描いてきたのですが……)
どこか晴れ晴れと美しい、夜の浅草の美術も印象に残る回でした。
しかし秀太郎、山上のためには一肌脱ぐけれども、自分のことはまったく噫にも出さないあたり、彼が葵のことをどう考えていたかが伺われるような……
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