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2021.08.03

重野なおき『信長の忍び』第18巻 村重謀叛に揺れる人々と、千鳥自身の戦いの始まりと

 本願寺との合戦の帰趨もほぼ定まったものの、荒木村重の謀反によって大きく揺れる織田家。『信長の忍び』第18巻で描かれるのはその波及効果の数々と、千鳥と助蔵の運命に大きな影響を及ぼす戦いの始まりであります。

 九鬼水軍と村上水軍の決戦により、実質的にほぼ決着した本願寺との戦い。しかし織田家に大きな衝撃を与えたのは、要衝である摂津を治めていた荒木村重の謀反であります。
 支城は次々と陥としたものの、村重が篭もる有岡城はさすがに要害、村重はしぶとく抵抗を続けるのですが――その行動が、様々な人物に影響を及ぼすことになるのです。

 その第一は、反旗を翻された信長その人であります。天下統一に突き進む最中に重臣の村重に裏切られた衝撃は大きく、彼の心の中に育った疑心暗鬼は、ついに千鳥すら疑ってしまうほどになるのです。
 そしてある意味そのとばっちりを受けたのが、村重に囚われ有岡城の土牢に監禁状態の黒田官兵衛。信長に寝返りを疑われ、処刑の命が下された官兵衛の子・松寿丸を救うため、既に己の余命が幾ばくもないことを知る竹中半兵衛は、最後の計略に挑むことになります。

 そしてもう一人――対陣する村重の「信長は天下を取れるかもしれないが治めるべき男ではない」という言葉(前巻に引き続き、キャラ描写の割りに妙に核心を突いたことを言う村重)に露骨に揺れるのが、誰であろう光秀であります。
 もちろんそれは小さなトゲに過ぎませんが、信長の下での戦いの連続に疲れを感じ始めた光秀の心に去来するのは――もちろん具体的なものではないものの、未来の悲劇の伏線は、着実に(というか露骨というか……)張られ始めていると言うべきでしょうか。


 さて、そんな状況ではありますが、もちろん織田軍は本願寺や村重とばかり戦っているわけではありません。
 この巻においては、そのほかにも武田家の終わりの始まりである北条家との決裂、安土城の完成、半兵衛の最期(秀吉の涙にこちらも涙……)、家康による瀬名と信康の処断と、様々な出来事が描かれるのですが――後半において、特に千鳥と助蔵にとって大きな戦いが始まることになります。

 それはかの天正伊賀の乱――この戦は、信長の子の中でも屈指の(?)ボンクラである信雄が伊賀にちょっかいを出したことの報復として、伊賀忍びたちの放火で丸山城が焼失したことに始まります。
 そしてその事実を知った信長により、伊賀に服従か殲滅かを問う使者として、千鳥と助蔵が送られるのですが……

 既に幼い頃に離れたとはいえ、二人にとっては故郷であり修行の地である伊賀。それだけに伊賀の人々の気性は知悉しているのですが――それでも何とか丸く収まりかけた時にまたもや信雄のボンクラが炸裂することになります。交渉決裂すなわち死に等しい「敵地」で、千鳥と助蔵の運命や如何に!?

 というわけで、ある意味この物語が始まった時から、どのように描かれることとなるのか気になってきた天正伊賀の乱。
 この巻ではその勃発までが描かれ、本当の戦いはここからですが、これまで散々歴史を陰から動かしてきた千鳥並み――とはいかないまでも、伊賀には記録に名を残す達人たちがゾロゾロいるのですから、この先タダで済むはずがありません。

 もっとも、記録に名前が残っているとはいえ、かなりフィクション度の高い、そしてキャラの立ちまくった忍びたちの集結で、リアリティレベルが一気に変わった感もありますが――それはそれできっちりと忍者ものの味わいになっていて、個人的には嬉しい展開ではあります。


 もちろん、千鳥にとっては信長の敵は自分の敵、既に覚悟は決まりまくってはいるのですが――しかしある意味彼女にとって初めての自分自身に関わる戦いだけに、その向かう先が、大いに気になるところです。


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